45 / 222
XV 危険なティータイム -VI
しおりを挟む
「……貴女の言う通りよ。貴女達の事はとても、気になっていた。でも、自分の素性を探られるのは誰だって気分のいいものでは無い筈よ。だから、話したくない事は話さなくて良いと……私は思っていたのだけど」
彼女が俯き、ぽつりと言葉を漏らす。強くガードしていた心の入り口が、僅かに緩むのを感じた。それは、手探りで探していた糸に触れた時の様な。彼女の心に入り込むのなら、今この瞬間しかないと思わせるものだ。
「――人、殺し」
浮べていた笑み、軽やかな口調、上機嫌な態度。彼女の警戒心を解く為の、言わば演技を全て剥がす。
静かな部屋に響いた自身の重々しい声に、空気が凍てるのを感じた。彼女の内部に入り込み、素手でその心臓を掴む様な、攻撃に等しい自身の言葉。これはほぼ、賭けである。
「私達は人から暗殺の依頼を受けて、沢山の人を殺して大金を貰って、更には普通に店に盗みに入ったりもして――」
猫の様に、蛇の様に。鋭い視線だけで、彼女に食らいつく。
「――貴女に用意したそのドレスも、全部盗品」
密かな自慢であった、形の良いアーモンド形の爪先で、彼女の身に着けている衣服を指した。
「これを聞いた貴女はどうする? 屋敷に帰る?」
きつい口調とも、穏やかな口調ともとれるであろう自身の声が、部屋にやけに大きく響く。
得意な心理戦。しかし、幾ら得意であろうとそれが好きな訳では決して無かった。
特に今の様に、純粋でか弱き女性を虚言で塗り固められた言葉で騙す瞬間。どう足掻いたって、そんな事を言う自身が好きになれる訳が無い。
あぁ、最低だ。罪の無い女性にこんな嘘を吐き、動揺させて、怯えさせて、こんな自分が嫌になる。だが、大切な家族であるセドリックを守る為でもあるのだ。
彼女から流れ込んでくる様々な感情。その中で最も大きいのはやはり動揺と恐怖。しかし、何よりも驚いたのは流れ込んでくる感情の中に“納得”があった事だ。
彼女は、この3日間で私達の事を“悪い人間”では無いかと考えた事があった。そして口にはしないものの、相当な数の憶測を立てて私達の事を推測していた。そういう事になる。
言葉は悪いが、随分賢い娘の様だ。決して、馬鹿な令嬢では無い。
とくとく、と心音が早くなる。これは私の能力の1つである、“共感”だ。これは能力というよりも、能力から切り離せない邪魔なもの、と私は捉えている。しかし、この“共感”が無かったら今頃私はもう“人間”では無かったと思う。
共感はエンパスの特徴であり、一口に言ってしまえば相手の心情と自分の心情を掏り替えてしまうものだ。彼女の鼓動が早くなればなる程、私の鼓動も早くなる。そして、彼女が不安や緊張感を抱けば抱く程、私の心も不安や緊張感に侵される。
すう、と彼女が小さく息を吸い、何かを決心した様に口を開いた。その先の言葉までをも、読める訳では無い。彼女の言葉を聞き逃さぬ様、集中力を高め彼女の瞳を凝視する。
「――私も、そのお仕事のお手伝いが出来るように頑張るわ」
ぷつりと、途切れた糸。何とか保っていた笑顔や余裕全てが、その言葉と共に崩壊した。
彼女が俯き、ぽつりと言葉を漏らす。強くガードしていた心の入り口が、僅かに緩むのを感じた。それは、手探りで探していた糸に触れた時の様な。彼女の心に入り込むのなら、今この瞬間しかないと思わせるものだ。
「――人、殺し」
浮べていた笑み、軽やかな口調、上機嫌な態度。彼女の警戒心を解く為の、言わば演技を全て剥がす。
静かな部屋に響いた自身の重々しい声に、空気が凍てるのを感じた。彼女の内部に入り込み、素手でその心臓を掴む様な、攻撃に等しい自身の言葉。これはほぼ、賭けである。
「私達は人から暗殺の依頼を受けて、沢山の人を殺して大金を貰って、更には普通に店に盗みに入ったりもして――」
猫の様に、蛇の様に。鋭い視線だけで、彼女に食らいつく。
「――貴女に用意したそのドレスも、全部盗品」
密かな自慢であった、形の良いアーモンド形の爪先で、彼女の身に着けている衣服を指した。
「これを聞いた貴女はどうする? 屋敷に帰る?」
きつい口調とも、穏やかな口調ともとれるであろう自身の声が、部屋にやけに大きく響く。
得意な心理戦。しかし、幾ら得意であろうとそれが好きな訳では決して無かった。
特に今の様に、純粋でか弱き女性を虚言で塗り固められた言葉で騙す瞬間。どう足掻いたって、そんな事を言う自身が好きになれる訳が無い。
あぁ、最低だ。罪の無い女性にこんな嘘を吐き、動揺させて、怯えさせて、こんな自分が嫌になる。だが、大切な家族であるセドリックを守る為でもあるのだ。
彼女から流れ込んでくる様々な感情。その中で最も大きいのはやはり動揺と恐怖。しかし、何よりも驚いたのは流れ込んでくる感情の中に“納得”があった事だ。
彼女は、この3日間で私達の事を“悪い人間”では無いかと考えた事があった。そして口にはしないものの、相当な数の憶測を立てて私達の事を推測していた。そういう事になる。
言葉は悪いが、随分賢い娘の様だ。決して、馬鹿な令嬢では無い。
とくとく、と心音が早くなる。これは私の能力の1つである、“共感”だ。これは能力というよりも、能力から切り離せない邪魔なもの、と私は捉えている。しかし、この“共感”が無かったら今頃私はもう“人間”では無かったと思う。
共感はエンパスの特徴であり、一口に言ってしまえば相手の心情と自分の心情を掏り替えてしまうものだ。彼女の鼓動が早くなればなる程、私の鼓動も早くなる。そして、彼女が不安や緊張感を抱けば抱く程、私の心も不安や緊張感に侵される。
すう、と彼女が小さく息を吸い、何かを決心した様に口を開いた。その先の言葉までをも、読める訳では無い。彼女の言葉を聞き逃さぬ様、集中力を高め彼女の瞳を凝視する。
「――私も、そのお仕事のお手伝いが出来るように頑張るわ」
ぷつりと、途切れた糸。何とか保っていた笑顔や余裕全てが、その言葉と共に崩壊した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる