DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XV 危険なティータイム -VI

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「……貴女の言う通りよ。貴女達の事はとても、気になっていた。でも、自分の素性を探られるのは誰だって気分のいいものでは無い筈よ。だから、話したくない事は話さなくて良いと……私は思っていたのだけど」

 彼女が俯き、ぽつりと言葉を漏らす。強くガードしていた心の入り口が、僅かに緩むのを感じた。それは、手探りで探していた糸に触れた時の様な。彼女の心に入り込むのなら、今この瞬間しかないと思わせるものだ。

「――人、殺し」

 浮べていた笑み、軽やかな口調、上機嫌な態度。彼女の警戒心を解く為の、言わば演技を全て剥がす。
 静かな部屋に響いた自身の重々しい声に、空気がてるのを感じた。彼女の内部に入り込み、素手でその心臓を掴む様な、攻撃に等しい自身の言葉。これはほぼ、賭けである。

「私達は人から暗殺の依頼を受けて、沢山の人を殺して大金を貰って、更には普通に店に盗みに入ったりもして――」

 猫の様に、蛇の様に。鋭い視線だけで、彼女に食らいつく。

「――貴女に用意したそのドレスも、全部盗品」

 密かな自慢であった、形の良いアーモンド形の爪先で、彼女の身に着けている衣服を指した。

「これを聞いた貴女はどうする? 屋敷おうちに帰る?」

 きつい口調とも、穏やかな口調ともとれるであろう自身の声が、部屋にやけに大きく響く。
 得意な心理戦。しかし、幾ら得意であろうとそれが好きな訳では決して無かった。
 特に今の様に、純粋でか弱き女性を虚言で塗り固められた言葉で騙す瞬間。どう足掻あがいたって、そんな事を言う自身が好きになれる訳が無い。
 あぁ、最低だ。罪の無い女性にこんな嘘をき、動揺させて、怯えさせて、こんな自分が嫌になる。だが、大切な家族であるセドリックを守る為でもあるのだ。
 彼女から流れ込んでくる様々な感情。その中で最も大きいのはやはり動揺と恐怖。しかし、何よりも驚いたのは流れ込んでくる感情の中に“納得”があった事だ。

 彼女は、この3日間で私達の事を“悪い人間”では無いかと考えた事があった。そして口にはしないものの、相当な数の憶測を立てて私達の事を推測していた。そういう事になる。
 言葉は悪いが、随分賢い娘の様だ。決して、馬鹿な令嬢では無い。
 とくとく、と心音が早くなる。これは私の能力の1つである、“共感”だ。これは能力というよりも、能力から切り離せない邪魔なもの、と私はとらえている。しかし、この“共感”が無かったら今頃私はもう“人間”では無かったと思う。

 共感はエンパスの特徴であり、一口に言ってしまえば相手の心情と自分の心情を掏り替えてしまうものだ。彼女の鼓動が早くなればなる程、私の鼓動も早くなる。そして、彼女が不安や緊張感を抱けば抱く程、私の心も不安や緊張感に侵される。

 すう、と彼女が小さく息を吸い、何かを決心した様に口を開いた。その先の言葉までをも、読める訳では無い。彼女の言葉を聞き逃さぬ様、集中力を高め彼女の瞳を凝視する。

「――私も、そのお仕事のお手伝いが出来るように頑張るわ」

 ぷつりと、途切れた糸。何とか保っていた笑顔や余裕全てが、その言葉と共に崩壊した。
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