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XVIII 痛み-III
しおりを挟む「なんだよ」
「いや、これは……私が言うのは違うのかな。それに、これ言ってもあんたがここ数日抱えてる悩みは解決しないし、寧ろ悩みが増えるだけだと思うよ」
「……別に、悩んでない」
「私に隠し事しても、無駄だって言ってるでしょ」
彼の心の中には、悶々とした悩みがある。それは、ここ数日の彼を見ていれば何となく分かる事だった。
細かな事までは分からないが、恐らくエルの事だ。彼の中の、エルへの執着、そして愛情が大きくなっている。まだ本人は、それが愛情だという事に気付いていない様だが。
手に持った香水をテーブルに置き、ソファの背に深く凭れ溜息を吐いた。
彼が愛情に気付けないのは、執着に気付けないのは、紛れもなく“あの男”の所為だ。折角セドリックが幸せを掴みかけているというのに、ことごとくあの男――彼の父親が邪魔をする。
全ての元凶はセドリックの母親だ。それは分かっている。しかし、父親も大概だ。何故、自身の息子の幸せを願えなかったのか。――いや、幸せを願った末が“あの言葉”だったのかもしれない。
だがどうしても、余計な事をしてくれたとしか思えず、考えれば考える程苛立ちが募っていく。
「セディはさ、あの子の事どう思ってんの?」
「……そんな事、聞かなくたってどうせ分かってんだろ」
彼が私からさっと目を逸らし、その場に俯いた。
開いた窓の外から、雨音がする。風が強い所為で雨が吹き込み、絨毯が濡れて色を変えていた。
それに気付いたのか、セドリックが徐に腰を上げ窓に近付く。
「人の言葉が呪いになるって、割とよくある事だと思うの。ほら、暴力を振るわれて育った子供は、他人を恐れて生きる様になるとか、人格否定され続けた子は意志が弱くなるとか、それと同じ様に」
「……何が言いたいんだ」
「トラウマって、重ければ重い程克服はしづらくなるけど……、でも“あの人”の言葉は別じゃないかな。あの人だって自分と同じただの人間で、神様じゃないよ。未来が予言出来る訳でも無いし、人の人生を左右する事も出来ない」
彼がやや強めに、窓を閉める。
いつの間にか天候は荒れ、雨が嵐に変わっていた。
「……私はね、そのトラウマに、支配されて欲しくないの。出来れば“あの人”の事は忘れて欲しい。折角セディの気持ちがあの子に向いてるのに、それを自分で壊して欲しくないんだよ」
私がどれだけ言っても、彼の心に植わったトラウマは消えない。
彼にとって父親の言葉は呪いであり、永遠に消える事の無いトラウマだ。もし私が彼の立場であったとしても、今の彼と同じ様に愛を恐れただろう。所詮は他人でしかない私の言葉など、響かない筈だ。
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