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XVIII 痛み-IV
しおりを挟む「――いっそ感情だけじゃなく、未来も視えたらなぁ」
彼が自嘲気味に笑い、私と視線を合わせた。
「……お前は、どうしたらいいと思う。エルが俺から離れて行かない関係は、どんな関係なんだ」
彼の問いに、どきりと鼓動が跳ね上がる。
――自分の感情に、素直になればいいよ。そうすれば、きっと幸せになれるよ。
そう、言えたらどれだけ良かっただろう。
こんな事を今の彼に伝えた所で、彼は変わらない。私の言葉を理解出来ずに終わるか、義務的に事を進めるかのどちらかだ。
「……それは、セディが自分で考えて、自分で気づくべきなんじゃないの」
彼の背後の窓から差し込む雷光で逆光になり、彼の表情は見えない。しかし、その心は不安に満ちている事が強く伝わってきた。
「――もう、どうだっていい」
セドリックがぽつりと、自身に言い聞かせる様に呟く。
「エルを繋ぎとめておけるなら、どんな関係でも」
彼が一体何をするつもりなのか、その心を、感情を読んだだけでは見当も付かない。悪い方向へと、進まなければ良いのだが。
彼は、まるで私の言葉など聞くつもりは無いとでも言う様に、私の横を擦り抜け玄関へと向かった。そしていつからか玄関に置かれていた、所有者不明の傘を手に取り、玄関扉を開く。
「――待って」
後先考えずに、思わずセドリックを呼び止めてしまった。何を話そうと思ったのか、自身でも分からない。
扉を開いたまま振り返った彼が、私に視線を向ける。
「……傘、危ないと思う」
迷った末に口にしたのは、本当に些細でどうだっていい事。散々諭す様な事を言っておいて、いざという時になると言葉が出て来ない自分に嫌気が差す。
「潔く濡れて帰ったら?」
自分への苛立ちを隠せないままに言葉を続けると、彼がぼんやりとした口調で「……そうするよ」と呟いた。
――彼が居なくなり、1人きりになった職場のホール。
目の前に並べられた香水に手を伸ばす気にはなれず、ソファの上で体育座りをする様に膝を抱えた。
『エルを繋ぎとめておけるなら、どんな関係でも』
彼が吐いたその言葉は、エルへの気持ちを自覚し受け入れたものにも聞こえる。しかし、諦観を匂わせる言葉でもあった。
自暴自棄になって、2人の関係が破綻する様な事を起こすのではないか。彼に限ってそんな事をするとは思えないが、完全に無いと言い切れない為不安だ。
しかし、これから先の事は全てセドリックが決める事であり、部外者の私が口を出せる事ではない。それに、どれだけセドリックのトラウマを共感したところで、結局は私には関係の無い事なのだ。私がどれだけ足掻こうと、セドリック自身が乗り越えなければ意味が無い。
「……痛い」
ピアスホールがじくじくと痛み、指先をピアスに触れさせた。
痛みを和らげようと、ピアスの金属部分を爪の先で引っ掻く。しかし、今日は中々痛みが治まらなかった。
痛みには慣れている方だが、じわじわと侵食されていく様なこの痛みは苦手だ。仮で着用しているピアスを外してしまいたい衝動に駆られながらもなんとか抑え込み、肺の中の空気を全て押し出してしまう程の深い溜息を吐いた。
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