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XIX 追憶-家族- -I
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私が、“人間は人の心を読む事が出来ない”、“人の気持ちや感情を読める自分が特殊である”と気付いたのは、母親に「心を読まれている様で気持ちが悪い」と言葉にされた時だった。
物心ついた時には既に母は私に辛辣で、常に私を疎んでいた。故に、物心つく前から私は人の心を読む事が出来ていたのだろう。
しかし、母は私を疎みつつも育てる事を放棄はしなかった。遊んでくれる事や、抱いてくれる事、笑顔を向けてくれる事こそ無かったが、それでも毎日決まった時間に食事を出し、洋服も買い与えられ、病を患った時には診療所へ連れていってくれた。看病をしてくれる事は、無かったけれど。
そんな母が豹変したのは、齢幾つの時だっただろうか。
確か、外で初めて父の姿を見た時だ。まだ愛や恋を知らない幼少期の事、私は長い黒髪に赤い瞳が印象的な美しい女性と歩いている父の姿を街で見かけた。父は、母にも私にも見せない優しい笑顔をその女性に向けていて、私は幼いながらにその女性と父は特別な関係である事を覚った。
母が私に手を上げたのは、それをまだままならない言葉で母に伝えた時だったと思う。初めて平手打ちされた時の痛みは、今でもよく覚えている。何故母が私に手を上げたのかが分からず、私はただ泣いていた。泣いて、母に訴えた。私の何がいけなかったのか、と。
母は何も答えなかった。何も教えてはくれなかった。だから私は、“間違った選択”をしてしまった。
子供の勘違いとは恐ろしいものだ。知能が発達していないが故に、間違っていると気付かず私は父と歩いていた女の事を調べた。人の感情が読める体質から、父と共に居た女性――所謂浮気相手を特定する事は然程難しい事では無かった。
相手の女は、シェリル・アンドール。人妻であり、更には一児の母であった。そして何より驚いたのは、彼女は一時期世間を賑わせたらしい、キャヴェンディッシュ家の元令嬢という事だった。
私は母が相手の女性を知りたがっていると勘違いをしたまま、嬉々としてその情報を伝えた。しかし、母は喜ぶどころか更に私にきつく当たる様になった。それも当然だ、知りたくも無い浮気相手の女の事を聞かされたのだから。
惚れた弱みというものなのか、母は父に逆らえなかった。故に、浮気を指摘する事も出来なかった。そして母の怒りや悲しみなどの鬱憤は、他でも無く私に向けられた。
父の前でも私に手を上げるようになった母に嫌気が差したのか、それとももう私と母に愛情が無かったのか、父は母に一方的に離縁を言い渡し家を出ていった。
怒りが頂点に達した母は、私までをも家から追い出した。
「お前が居たからこうなった」
「お前さえ居なければあの人は浮気なんてしなかった」
そう言って私を殴った母は泣いていた。
幼かった私は、子供なりにその事実を悲しく思い、数日間1人路地裏で泣き続けた。許して欲しいと、家に戻った事もあった。しかし、母はもう私に見向きもしなかった。殴る事も怒鳴る事もせず、ただ無関心を貫いていた。
あの時の母を見て、私は漸く覚った。私が余計な事をしてしまったのだと。私が家族を壊してしまったのだと。もう、家族は元に戻らないのだと。
物心ついた時には既に母は私に辛辣で、常に私を疎んでいた。故に、物心つく前から私は人の心を読む事が出来ていたのだろう。
しかし、母は私を疎みつつも育てる事を放棄はしなかった。遊んでくれる事や、抱いてくれる事、笑顔を向けてくれる事こそ無かったが、それでも毎日決まった時間に食事を出し、洋服も買い与えられ、病を患った時には診療所へ連れていってくれた。看病をしてくれる事は、無かったけれど。
そんな母が豹変したのは、齢幾つの時だっただろうか。
確か、外で初めて父の姿を見た時だ。まだ愛や恋を知らない幼少期の事、私は長い黒髪に赤い瞳が印象的な美しい女性と歩いている父の姿を街で見かけた。父は、母にも私にも見せない優しい笑顔をその女性に向けていて、私は幼いながらにその女性と父は特別な関係である事を覚った。
母が私に手を上げたのは、それをまだままならない言葉で母に伝えた時だったと思う。初めて平手打ちされた時の痛みは、今でもよく覚えている。何故母が私に手を上げたのかが分からず、私はただ泣いていた。泣いて、母に訴えた。私の何がいけなかったのか、と。
母は何も答えなかった。何も教えてはくれなかった。だから私は、“間違った選択”をしてしまった。
子供の勘違いとは恐ろしいものだ。知能が発達していないが故に、間違っていると気付かず私は父と歩いていた女の事を調べた。人の感情が読める体質から、父と共に居た女性――所謂浮気相手を特定する事は然程難しい事では無かった。
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私は母が相手の女性を知りたがっていると勘違いをしたまま、嬉々としてその情報を伝えた。しかし、母は喜ぶどころか更に私にきつく当たる様になった。それも当然だ、知りたくも無い浮気相手の女の事を聞かされたのだから。
惚れた弱みというものなのか、母は父に逆らえなかった。故に、浮気を指摘する事も出来なかった。そして母の怒りや悲しみなどの鬱憤は、他でも無く私に向けられた。
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怒りが頂点に達した母は、私までをも家から追い出した。
「お前が居たからこうなった」
「お前さえ居なければあの人は浮気なんてしなかった」
そう言って私を殴った母は泣いていた。
幼かった私は、子供なりにその事実を悲しく思い、数日間1人路地裏で泣き続けた。許して欲しいと、家に戻った事もあった。しかし、母はもう私に見向きもしなかった。殴る事も怒鳴る事もせず、ただ無関心を貫いていた。
あの時の母を見て、私は漸く覚った。私が余計な事をしてしまったのだと。私が家族を壊してしまったのだと。もう、家族は元に戻らないのだと。
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