DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXII 予期不安-I

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 普段より早起きをして、駆け込む様に訪れたのは職場の書斎ライブラリー
 今朝も相変わらずシーラは私に悪意を振り撒いていたが、今日の私はそれ等に一切の関心を示さなかった。書斎で私を待っている、大切な物に心を奪われていたからだ。
 そんな私を見て、普段と違う事を覚ったのだろう。これ以上何を言っても無駄だとでも思ったのか、途中からシーラは冷たい視線だけを私に向け、口を噤んだ。

 アームソファから見て右側の棚、並んだ本が数冊僅かに出っ張っている場所がある。ぱっと見ただけでは気付かない程度のものだが、よく見てみればそれは不自然で、本の裏側に“何かが隠されている”のが明らかな見た目をしていた。
 この書斎に、私以外の人物が足を踏み入れる事は無い。仮にあったとしたら、セドリック位である。しかしそのセドリックでさえ、この書斎に足を踏み入れた事は過去に一度も無かった。
 
 こうする事に、なんの意味も無い事位分かっている。だが、これはあくまで保険だ。大切な物を見える場所に置いておきたくない、という心理から来るものである。

 出っ張った本を棚から取り出し、雑に床に積み上げる。ぽっかりと棚に空いた空白の所為でパタパタと本が倒れてくるのをなんとか片手で押さえ、もう片方の手をその空白の奥へと突っ込んだ。
 指先に触れる、硬い紙の箱の感触。誰もこの書斎に足を踏み入れていないのだから、それがそこにあるのは最早当然の事ではあるのだが、変わらずそこに存在している事に僅かながら安堵を覚えた。
 それをしっかりと片手で掴み、空白の中から引っこ抜く。そして取り出した黒い小箱――マリアから贈られたピアスを、大切に胸に抱いた。
 手を退けた事で、パタパタと本が倒れていく。しかしそんな本達に目もくれず、私はその小箱を胸に抱いたままソファに浅く腰掛けた。小箱をそっと開き、覗き込む様に箱の中へと視線を落とす。
 小箱の中には、数ヵ月前と変わらず、美しい光を放つガーネットのピアスが仕舞われていた。漸くこのピアスを着用できる日が来た、と期待に胸を膨らませながら、蓋を開いたままの小箱をサイドテーブルに慎重に乗せる。

 ――私の両耳に着けられた地味な金属のピアスは、通称“ファーストピアス”と呼ばれるものらしい。昨晩仕事帰りに診療所へ寄り、マクファーデンにピアスホールを見せたところ、良くも悪くも呆気なく、「もうファーストピアスを外して、例のピアスを着用してもいいですよ」と彼は言った。
 最早耳と一体化してしまっている様にすら感じるファーストピアスを、外す瞬間というのは非常に緊張する。あれ程外したかった物だと言うのに、今は何だか、外してしまう事に寂しさを覚えていた。

 耳朶の裏に指を這わせ、針状のピアスを固定しておく為の金具――キャッチを摘み、そっとピアスから外した。そして丁寧に、ピアスホールに埋もれる様に嵌められていたピアスをホールから引き抜く。

 不思議と、ピアスを外した感覚は無かった。
 するりと抜けたそれには血液等も付着しておらず、マクファーデンの言う通りホールが安定したのだという事を覚る。

 ――傷口に、金属を嵌め込んだら。
 一般的な知識だけで考えれば、そのまま金属を飲み込む様にして傷が塞がってしまう事を想像する。ピアスなんて、針程に細い。尚の事、皮膚と同化してしまいそうだ。だと言うのに、ピアスはすんなりと耳朶から外れ、そして綺麗な穴だけを残した。
 どのようなメカニズムなのだろう。耳朶に空いた小さなピアスホールを、事前に用意しておいた手鏡で見つめながら考える。
 毎日、仕事が終わった後診療所へ通い、穴を開けた耳朶が膿んでしまわぬ様にと消毒をしてもらっていた。当然、自身では耳元を見る事が出来ない為、どんな処置が施されているかは分からない。だが、触れられている感覚だけで言えば、消毒以外の事はしていなかった様に思える。
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