DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXII 予期不安-II

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 両耳からファーストピアスを外し、小さく息を吐く。新しいピアスを着用する事に、恐怖心と期待が沸き上がる。それと同時に、マリアの形見と呼べるものを漸く身に着けられる事に安堵していた。
 小箱からピアスを取り出し、ピアスの金具に視線を落とす。
 マリアから贈られたピアスは、ファーストピアスと違い針がフック型に曲がっている。ピアスが落ちない様にと固定しておくキャッチも存在していない。
 職業柄ピアスなどのアクセサリーを見る機会は多かったが、金具にこれ程大きな違いがあるとは思わなかった。ただ宝石をぶら下げているだけじゃなかったのだと解し、感嘆を漏らす。
 ライリーなら、この手の話には詳しいかもしれない。そんな事を思いながら手鏡を覗き、恐る恐るピアスの先端をホールに宛がった。そしてそのまま慎重に、ピアスの針をホールへ押し込んでいく。
 
「つい、た……?」

 手鏡に映る自身の耳朶を見て独言を漏らし、そっとピアスから手を離した。
 顔を動かす度にぶら下がったティアドロップのガーネットが揺れ、その振動がダイレクトに耳に伝わってくる。
 手に持っていた時には分からなかったというのに、耳にぶら下げた瞬間その宝石本来の重さを感じた。やはり、このピアスは高価な物なのだ。身に着けてみて、改めて実感する。

 昔、貴族の誰かが言っていたのを思い出す。宝石は、手に取るだけでは価値は分からないと。身に着けて初めて、その宝石の価値が分かると。
 当時は貴族の戯言たわごとだと思い聞き流していたが、今回このピアスを身に着けてみて、その言葉の本当の意味が分かった気がした。


 ◇


 ――午前10時半。
 ホールで紅茶を飲みながら、時々耳に着けたピアスに触れる。

 両耳に着用したピアスが重く、何をするにも動きがぎこちなくなってしまう。
 しかしそれも当然だろう。耳朶に開けた小さなホールに、大ぶりのティアドロップをぶら下げているのだから。少しでも引っ張れば痛みを伴い、最悪の場合ホールが千切れてしまう可能性だってある。痛みの恐怖は殆ど無いが、ピアスホールが千切れるという場面を想像すると慄然りつぜんとしてしまう。

 数ヵ月前、確かマクファーデンからピアスを受け取ってまだ間もない頃の事。
 診療所を訪れた宝石鑑定士と名乗る男に、マリアから譲り受けたピアスを見せた事があった。
 その男が言うには、ピアスに付いた宝石はロードライトガーネットという宝石らしい。ガーネットの中でも代表的な流通量を誇る石らしく、パイロープとアルマンダイトという2種のガーネットが溶けて混ざり合った石なのだとか。
 ギリシャ語で薔薇を意味するロードと石を意味するライトに由来する、等と蘊蓄うんちくを述べ、男は満足気に診療所を去って行った。マクファーデンはその男と顔見知りの様で、彼はその男を「腕の良い信頼できる鑑定士」だと言っていた。マクファーデンが言うのなら、本当なのだろう。

 耳にぶら下がるガーネットに触れ、息を吐く。
 ピアスが耳に馴染むのには、暫く時間が掛かりそうだ。何かにピアスが引っ掛かる事を恐れて、ぎこちない動きを繰り返してしまう事が目に見える。
 それに、耳朶への違和感も拭えない。ちゃんと身に着けていられるだろうか、と不安を抱きながらも、ティーカップを口元へ運んだ。
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