77 / 222
XXIV 心の変化-I
しおりを挟む
――診療所のカーテンの奥。定位置に座り、鼻歌を歌いながらそれに合わせてリズムを刻む様にタンタンと指先でテーブルを叩く。
セドリックから、エルと結婚する事になったと聞いたのは2日前の事。セドリックがエルにプロポーズをした、翌日の夜だ。
エルの返事は分かり切っていたが、やはり上手くいった事を聞くと嬉しくなってしまうものである。それを聞いた時、私は年甲斐もなく飛び跳ねて喜び、そして思わずセドリックに抱き着いてしまった。当然と言うべきか、彼にはすぐさま突き飛ばされてしまったが。
セドリックは、決して多くを語らなかった。しかし、その心の内は喜びで満ち溢れていた。
生に執着が無く、嬉しみも悲しみも無かったセドリックが、エルと夫婦になれる事を心から喜んでいる。そんな姿を見ていると、涙が出る程に嬉しかった。
「――随分とご機嫌ですね」
不意に投げかけられた言葉に、テーブルを叩く指を止める。
デスクに視線を遣ると、やや眠そうな顔をしたマクファーデンが此方に顔を向けていた。
「セディが――幼馴染が、結婚する事になったの。ずっと好きだった子と結ばれて、それで」
「そうでしたか、それはおめでたい話ですね」
「おめでたい、なんてもんじゃないよ。私、ずっと傍で2人の事見てきたから、2人の想い知ってたから、だから本当に、本当に嬉しくて……! それにね、セディは弟みたいな存在なの。だから、そんな弟が結婚したら、結婚相手は私の妹になるでしょ? なんか、家族が増えるみたいで嬉しくって、こう、温かい気持ちになるっていうか、擽ったい気持ちになるっていうか、良く分かんないけど……」
そこで、はたと気付く。私はマクファーデン相手に、何を話しているのだろう。
気が付けば頬も緩んでいて、だらしない表情を浮べている事が自分でも分かった。
「ごめん、話し過ぎ――……」
顔を引き締め、再度マクファーデンに視線を向ける。しかし、彼の顔を見て言葉が止まった。
いつも無表情で感情の読めない彼が、珍しくも、私に微笑みを向けていたからだ。
眼鏡の奥の、バイオレットの瞳は優しく細められ、口元は弧を描く様に緩んでいる。
「貴女のその様な笑顔は、初めて見ました。余程、その幼馴染の方とお相手の女性を大切にしていらっしゃるのですね」
普段より低く、優しい声音。
優しい声なら、昔から聞いた事があった。エリオット先生だって、いつもいつも私に優しい声で語り掛けてくれていた。
そう思うも、今のマクファーデンとエリオット先生ではまるで違う。しかし、具体的にどこが違うかと問われれば、上手く答えられない。
だが、2人が全く違うという事だけは明瞭だった。
セドリックから、エルと結婚する事になったと聞いたのは2日前の事。セドリックがエルにプロポーズをした、翌日の夜だ。
エルの返事は分かり切っていたが、やはり上手くいった事を聞くと嬉しくなってしまうものである。それを聞いた時、私は年甲斐もなく飛び跳ねて喜び、そして思わずセドリックに抱き着いてしまった。当然と言うべきか、彼にはすぐさま突き飛ばされてしまったが。
セドリックは、決して多くを語らなかった。しかし、その心の内は喜びで満ち溢れていた。
生に執着が無く、嬉しみも悲しみも無かったセドリックが、エルと夫婦になれる事を心から喜んでいる。そんな姿を見ていると、涙が出る程に嬉しかった。
「――随分とご機嫌ですね」
不意に投げかけられた言葉に、テーブルを叩く指を止める。
デスクに視線を遣ると、やや眠そうな顔をしたマクファーデンが此方に顔を向けていた。
「セディが――幼馴染が、結婚する事になったの。ずっと好きだった子と結ばれて、それで」
「そうでしたか、それはおめでたい話ですね」
「おめでたい、なんてもんじゃないよ。私、ずっと傍で2人の事見てきたから、2人の想い知ってたから、だから本当に、本当に嬉しくて……! それにね、セディは弟みたいな存在なの。だから、そんな弟が結婚したら、結婚相手は私の妹になるでしょ? なんか、家族が増えるみたいで嬉しくって、こう、温かい気持ちになるっていうか、擽ったい気持ちになるっていうか、良く分かんないけど……」
そこで、はたと気付く。私はマクファーデン相手に、何を話しているのだろう。
気が付けば頬も緩んでいて、だらしない表情を浮べている事が自分でも分かった。
「ごめん、話し過ぎ――……」
顔を引き締め、再度マクファーデンに視線を向ける。しかし、彼の顔を見て言葉が止まった。
いつも無表情で感情の読めない彼が、珍しくも、私に微笑みを向けていたからだ。
眼鏡の奥の、バイオレットの瞳は優しく細められ、口元は弧を描く様に緩んでいる。
「貴女のその様な笑顔は、初めて見ました。余程、その幼馴染の方とお相手の女性を大切にしていらっしゃるのですね」
普段より低く、優しい声音。
優しい声なら、昔から聞いた事があった。エリオット先生だって、いつもいつも私に優しい声で語り掛けてくれていた。
そう思うも、今のマクファーデンとエリオット先生ではまるで違う。しかし、具体的にどこが違うかと問われれば、上手く答えられない。
だが、2人が全く違うという事だけは明瞭だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる