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XXIII 運命が変わる時-III
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「――あの森、の事なんだが」
急に振られた話に付いていけず、「森?」と復唱する様に問う。
しかし、セドリックは解説をする様子は無く、察しろと言わんばかりに言葉を続けた。
「奥に、廃教会があっただろ」
「あ、あぁ、森、隣街と繋がってるあの森の事ね。うん、結構大きい教会があった筈だよ」
隣街とこの街を繋ぐ様に位置する、大きいとも小さいとも言えぬ森。勿論隣街へ行く為にその森を必ずしも通る必要は無いが、少々遠回りになる為私は頻繁にその森を通る。
しかし、その森は昼間でも薄暗く、足場も悪い為、街の人間からは忌み嫌われている様だった。あの森には正式な名前があった筈だが、街の人間が皮肉を込めて“Living forest 《生きる森》”と呼んでいる為その名前を忘れてしまった。
恐らく、剥き出しになった樹木の根や、一度入ったら抜け出せなくなる様なあの空気感、そして人間を取り込んでいる様にも見える様子からそう呼ばれているのだろう。
だがあの森は、道さえ覚えてしまえば簡単に通り抜ける事が出来る。不気味なのは空気感だけで、当然の事ではあるが人間を取り込んだりなどしない。人の手が入り、もう少し整理されれば変わるだろうに、人々はあの森を避けるばかりで放置している為、妙な噂は広がる一方だ。
「あの教会って、入れるのか?」
「……なんで?」
「いや別に」
まさか、セドリックはあの教会でプロポーズをするなんて事を考えているのではなかろうか。
――馬鹿な真似はやめておけ。折角のチャンスを棒に振るつもりか。
思わずそう言い掛けるが、ふと昔、興味本位であの教会に立ち入った事を思い出した。
廃教会、というだけあって、その廃れ具合は中々のものだった。ガラスの破片は飛び散り、一体誰が捨てたのか、酒瓶などのゴミが転がり、椅子には所々蜘蛛の巣が張る。床のタイルも割れて剥がれており、慎重に歩かなければ足を取られてしまう程だった。
――なのに。
まるで教会全体を包み込む様な、美しい光を放つ大きなステンドグラス。穢れの無いそのステンドグラスには、様々な色のガラスが使われており、放つ光は虹色に輝いていた。
あまりの美しさに、言葉が出ず暫く見入っていた事を覚えている。
今でもそのステンドグラスが存在しているのなら、エルやセドリックにも見せてやりたい。それに、あのステンドグラスの力があればきっとロマンチックな空間を作り出す事が出来るだろう。そんな考えが沸き上がる。
しかし、その教会まで行くには不気味な森を通らなくてはならない。セドリックはともかく、エルに辿り着く事が出来るだろうか。だがセドリックが共に居るのなら、平気だろう。
「……入れると思うよ」
間を置いてそう告げると、彼が一言「そうか」と関心が無さそうに返答する。
しかし、その心中では教会の事やプロポーズの事を、悶々と考えている様だった。
急に振られた話に付いていけず、「森?」と復唱する様に問う。
しかし、セドリックは解説をする様子は無く、察しろと言わんばかりに言葉を続けた。
「奥に、廃教会があっただろ」
「あ、あぁ、森、隣街と繋がってるあの森の事ね。うん、結構大きい教会があった筈だよ」
隣街とこの街を繋ぐ様に位置する、大きいとも小さいとも言えぬ森。勿論隣街へ行く為にその森を必ずしも通る必要は無いが、少々遠回りになる為私は頻繁にその森を通る。
しかし、その森は昼間でも薄暗く、足場も悪い為、街の人間からは忌み嫌われている様だった。あの森には正式な名前があった筈だが、街の人間が皮肉を込めて“Living forest 《生きる森》”と呼んでいる為その名前を忘れてしまった。
恐らく、剥き出しになった樹木の根や、一度入ったら抜け出せなくなる様なあの空気感、そして人間を取り込んでいる様にも見える様子からそう呼ばれているのだろう。
だがあの森は、道さえ覚えてしまえば簡単に通り抜ける事が出来る。不気味なのは空気感だけで、当然の事ではあるが人間を取り込んだりなどしない。人の手が入り、もう少し整理されれば変わるだろうに、人々はあの森を避けるばかりで放置している為、妙な噂は広がる一方だ。
「あの教会って、入れるのか?」
「……なんで?」
「いや別に」
まさか、セドリックはあの教会でプロポーズをするなんて事を考えているのではなかろうか。
――馬鹿な真似はやめておけ。折角のチャンスを棒に振るつもりか。
思わずそう言い掛けるが、ふと昔、興味本位であの教会に立ち入った事を思い出した。
廃教会、というだけあって、その廃れ具合は中々のものだった。ガラスの破片は飛び散り、一体誰が捨てたのか、酒瓶などのゴミが転がり、椅子には所々蜘蛛の巣が張る。床のタイルも割れて剥がれており、慎重に歩かなければ足を取られてしまう程だった。
――なのに。
まるで教会全体を包み込む様な、美しい光を放つ大きなステンドグラス。穢れの無いそのステンドグラスには、様々な色のガラスが使われており、放つ光は虹色に輝いていた。
あまりの美しさに、言葉が出ず暫く見入っていた事を覚えている。
今でもそのステンドグラスが存在しているのなら、エルやセドリックにも見せてやりたい。それに、あのステンドグラスの力があればきっとロマンチックな空間を作り出す事が出来るだろう。そんな考えが沸き上がる。
しかし、その教会まで行くには不気味な森を通らなくてはならない。セドリックはともかく、エルに辿り着く事が出来るだろうか。だがセドリックが共に居るのなら、平気だろう。
「……入れると思うよ」
間を置いてそう告げると、彼が一言「そうか」と関心が無さそうに返答する。
しかし、その心中では教会の事やプロポーズの事を、悶々と考えている様だった。
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