DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXVIII 嫉妬と煙草-I

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「――嫉妬って感情が、分からない」

 診療所の定位置。足をぶらつかせ、テーブルに頬杖を突いてぽつりと漏らす。

「貴女に分からない感情なんてあるんですか?」

「人の心が分かるから全ての感情が分かるって訳じゃないし。……っていうか――」

 開いた窓の前に立ち、煙草を口に咥えるのはこの診療所の唯一の医者である、エドワード・マクファーデンだ。そんな彼に、きつい視線を向ける。

「煙草の煙、臭い。そもそも、人間の体調を第一に考える医者が煙草ってどうなの」

 私の言葉に、マクファーデンがやや複雑な表情を浮べ、窓の外に煙を吐き出した。

「貴女の言う事は確かに正論だ。しかし、少々残酷でもありますね」

「は……? それって、どういう……」

「この国では、男性は紳士である事を求められる。いつでも女性をエスコートし、身をていして女性を守り、決して涙を見せてはならない強い存在でなくてはならないと」

 彼の言葉の意図が分からず、眉を顰めながらも黙って続きの言葉を待つ。

「しかし、我々男性だって、女性と同じ人間です。苦しみや悲しみ、痛みだって女性と同じ様に受けます。なのに、涙を流す事も、弱音を吐く事も許されない。何故でしょうか」

「何故……って、言われても」

「煙草や酒で、その苦しみが癒える事は無い。それは分かっています。しかし、女性の様に立ち振る舞う事が出来ないのだから、この位の娯楽は許されてもいいのではないでしょうか」

「……」

 彼の言葉で、ふと昔の記憶が蘇った。昔――まだ私が18の頃の事だ。
 日に日に吸う煙草の量が増えていくセドリックに、煙草は身体に悪いし金の無駄だと注意した事があった。その時の彼は、無表情で、無感情で、ただ淡々と告げた。

『いいだろ、煙草位。男はどんな事があったって、お前ら女みたいに簡単に泣けねぇんだから』

 当時は、あまりに彼が無感情で、伝わってくるものがなにも無く、その言葉の意味が分からなかった。しかしあの時の彼も、今のマクファーデンと同じだったのだろうか。

 私は、男性に守って貰う必要は無い。他人に守って貰わなくとも、自分自身で全てを片付けられるからだ。涙を流す事も、他の女性よりかは少ない気もする。
 そんな私には分からない話だが、今目の前にいるマクファーデンがあまりにも悲しい顔をするから、きっと男性である彼等にしか分からない何かがあるのだと覚った。
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