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XXVIII 嫉妬と煙草-II
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「――煙草、1本頂戴」
何故、こんな事を言いだしたのかは自分でも分からない。しかし、今彼が味わっているその味を知りたいと思った。
「いや……煙草は身体に毒ですので……」
「それ、あんたが言う?」
「煙草は女性の嗜みではありませんよ」
「別に嗜むつもりは無い。どんなものか気になっただけ」
マクファーデンが、僅かに眉を顰める。
しかし、これ以上私に何を言っても無駄だとでも思ったのか、「仕方ありませんね、1本だけですよ」と言って自身のシガレットケースから煙草を1本取り出した。そしてその煙草を私の口に咥えさせ、マッチを探そうとしたのか、彼の手がジャケットの内側を探った。
「――あ」
声を上げたマクファーデンに、首を傾げる。すると、彼が「マッチ、切らしてしまいました」と言って空になったマッチケースを広げて見せた。
「どうしましょうか、火を付ける術がありません」
慣れた手つきでアッシュトレイに焼けた灰を落とし、彼が薄っすらと笑った。
「私に煙草吸わせない為にわざと切らした?」
「まさか。そんな器用な事出来ませんよ」
火の付いてない煙草を咥えたまま、上目遣いに彼を見つめる。それと同時に私を見つめる彼が、やや困った様な妙な表情を浮べた。
「そんなに吸いたいですか?」
「吸ってみたい、って気持ちはある。でもこれ、口紅付いちゃったし返すにも返せないよ」
咥えた煙草を指でつまみ、口から離してみると、フィルター部分にくっきりと紅が残ってしまっていた。
「そうですか。僕としては、その紅が付いた煙草を返してもらっても一向に構わないのですがね。しかしまぁ、貴女が吸ってみたいと言うのなら……、これで火が付けられるか分かりませんが、試してみますか」
彼がふらりと窓際から離れ、私に近付きテーブルに片手を突いた。そして私の腕を掴み、指に挟んでいた紅の付いた煙草を再び咥えさせる。一体何をするつもりなのかとされるがままで居ると、彼が徐に煙草を咥えたまま私に顔を近付けた。
じり、と小さな焼ける音を立て、まるで口付けでもするかの様にお互いの煙草の先が触れ合う。
赤い火の付いた灰が、私の煙草の先を侵食する様に焼いてゆき、少しずつではあるが煙草に火が移っているのが分かった。
しかし、今の私の視線は、煙草の先では無く目の前の彼の顔に向けられていた。眼鏡の奥のバイオレットの瞳は伏し目がちに煙草の先を見つめていて、視線が交わる事は無い。
こんなに近くに居るのに、視線が交わらない。それが何だか寂しく感じて、胸の奥がチリチリと痛んだ。
彼は、街で女性達から噂をされる程に美形らしい。私は眉目秀麗なセドリックと長年共に居たからか、マクファーデンを何処にでもいる男性だと思っていた。それに彼は眼鏡を掛けていて、更には前髪も長い為、何処かパッとしない印象を抱いていたのかもしれない。
しかしこうして近くで見ると、噂をされるのも納得する程綺麗な顔立ちをしているのが分かる。
「ん、駄目元でしたが案外簡単に付きましたね」
彼の声で我に返り、その顔から視線を外す。煙草の先を見ると、確かに火が付いていた。
彼の顔を一瞥した後、躊躇いがちに煙を吸い込む。
その瞬間、耐え難い苦みが口の中に広がった。肺や喉が焼ける様に痛み、強烈な不快感にくらりと眩暈がする。
「こんなもの、吸う人の気が知れない」
「初めて煙草を吸う人は皆そう言います」
私の反応に笑みを零した彼が、煙草を吸いながらアッシュトレイを私の前に置く。
たった一口吸っただけでやめてしまうだなんて勿体ないと思うが、とても二口目を吸う気にはなれず、煙草の先をアッシュトレイに押し付けた。
そんな私の姿に、再び彼が笑みを零す。
最近、彼が良く笑う様になった。患者と接している時は分からないが、少なくとも初めて会った時に比べれば大分笑顔が増えた様に思える。
最近では能力関係なく、彼が何を考えているのかがなんとなく分かる様な気がしていた。
何故、こんな事を言いだしたのかは自分でも分からない。しかし、今彼が味わっているその味を知りたいと思った。
「いや……煙草は身体に毒ですので……」
「それ、あんたが言う?」
「煙草は女性の嗜みではありませんよ」
「別に嗜むつもりは無い。どんなものか気になっただけ」
マクファーデンが、僅かに眉を顰める。
しかし、これ以上私に何を言っても無駄だとでも思ったのか、「仕方ありませんね、1本だけですよ」と言って自身のシガレットケースから煙草を1本取り出した。そしてその煙草を私の口に咥えさせ、マッチを探そうとしたのか、彼の手がジャケットの内側を探った。
「――あ」
声を上げたマクファーデンに、首を傾げる。すると、彼が「マッチ、切らしてしまいました」と言って空になったマッチケースを広げて見せた。
「どうしましょうか、火を付ける術がありません」
慣れた手つきでアッシュトレイに焼けた灰を落とし、彼が薄っすらと笑った。
「私に煙草吸わせない為にわざと切らした?」
「まさか。そんな器用な事出来ませんよ」
火の付いてない煙草を咥えたまま、上目遣いに彼を見つめる。それと同時に私を見つめる彼が、やや困った様な妙な表情を浮べた。
「そんなに吸いたいですか?」
「吸ってみたい、って気持ちはある。でもこれ、口紅付いちゃったし返すにも返せないよ」
咥えた煙草を指でつまみ、口から離してみると、フィルター部分にくっきりと紅が残ってしまっていた。
「そうですか。僕としては、その紅が付いた煙草を返してもらっても一向に構わないのですがね。しかしまぁ、貴女が吸ってみたいと言うのなら……、これで火が付けられるか分かりませんが、試してみますか」
彼がふらりと窓際から離れ、私に近付きテーブルに片手を突いた。そして私の腕を掴み、指に挟んでいた紅の付いた煙草を再び咥えさせる。一体何をするつもりなのかとされるがままで居ると、彼が徐に煙草を咥えたまま私に顔を近付けた。
じり、と小さな焼ける音を立て、まるで口付けでもするかの様にお互いの煙草の先が触れ合う。
赤い火の付いた灰が、私の煙草の先を侵食する様に焼いてゆき、少しずつではあるが煙草に火が移っているのが分かった。
しかし、今の私の視線は、煙草の先では無く目の前の彼の顔に向けられていた。眼鏡の奥のバイオレットの瞳は伏し目がちに煙草の先を見つめていて、視線が交わる事は無い。
こんなに近くに居るのに、視線が交わらない。それが何だか寂しく感じて、胸の奥がチリチリと痛んだ。
彼は、街で女性達から噂をされる程に美形らしい。私は眉目秀麗なセドリックと長年共に居たからか、マクファーデンを何処にでもいる男性だと思っていた。それに彼は眼鏡を掛けていて、更には前髪も長い為、何処かパッとしない印象を抱いていたのかもしれない。
しかしこうして近くで見ると、噂をされるのも納得する程綺麗な顔立ちをしているのが分かる。
「ん、駄目元でしたが案外簡単に付きましたね」
彼の声で我に返り、その顔から視線を外す。煙草の先を見ると、確かに火が付いていた。
彼の顔を一瞥した後、躊躇いがちに煙を吸い込む。
その瞬間、耐え難い苦みが口の中に広がった。肺や喉が焼ける様に痛み、強烈な不快感にくらりと眩暈がする。
「こんなもの、吸う人の気が知れない」
「初めて煙草を吸う人は皆そう言います」
私の反応に笑みを零した彼が、煙草を吸いながらアッシュトレイを私の前に置く。
たった一口吸っただけでやめてしまうだなんて勿体ないと思うが、とても二口目を吸う気にはなれず、煙草の先をアッシュトレイに押し付けた。
そんな私の姿に、再び彼が笑みを零す。
最近、彼が良く笑う様になった。患者と接している時は分からないが、少なくとも初めて会った時に比べれば大分笑顔が増えた様に思える。
最近では能力関係なく、彼が何を考えているのかがなんとなく分かる様な気がしていた。
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