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XXVIII 嫉妬と煙草-IV
しおりを挟む「――ところで先生、恋人はいらっしゃいますの?」
図々しいにも程がある女の問いに、思わず声が出そうになり咄嗟に自身の口を塞いだ。
あの女とマクファーデンは、ただの患者と医者でしかない。だというのに、よくもまぁそこまで勘違いも甚だしい問いが出来るものだ。
「――恋人……ですか」
僅かに困惑の色を示したマクファーデンに、彼もそんな問いを唐突に患者から投げられて哀れだと同情する。
「――恋人は、今の所居ませんね」
「――まあ、そうでしたの! では、お慕いしている方は?」
患者の立場でありながら、次から次へと愚問を投げかける女に嫌気が差す。身の程を知れ、と引っ叩きたくなってしまう程だ。
「――あら……? エドワード先生?」
女が怪訝な瞳でマクファーデンを見つめる。それに釣られ、自身も彼の顔に視線を向けた。
彼の顔に浮かんでいたのは、柔らかく、そして何処か切なげな笑み。その笑顔に、強く胸が締め付けられるのを感じた。
「――あぁ、すみません。想い人なら居ますよ」
「――想い人……? どんな方、ですの?」
「――愛らしくて、美人で、子供っぽい様で何処か大人びていて。赤い紅の似合う女性です。ですが、恐らく僕の事を嫌っている」
彼の言葉を聞いたあの女が、あからさまに残念そうな表情を浮べる。きっと彼女はマクファーデンを好いていたが、彼自身を好いていたのでは無くその容姿を好いていただけなのだろう。
カーテンを掴んでいた手を、ぎゅっと握り締める。
愛らしくて、美人で、子供っぽい様で何処か大人びていて、赤い紅の似合う女性。そしてマクファーデンを嫌っている。
その特徴に当てはまる女性は、私の頭の中には居ない。此処に良く来る女性だろうか。
そういえば、彼は元々バーソロミュー病院に勤めていた医師だ。その病院の同僚という可能性も考えられる。彼の上げた特徴を頭の中に並べ立て、架空の女性を脳内で作り上げる。
「――その女性に、想いはお伝えになりませんの?」
「――あぁ、どうでしょうか。伝える機会は幾らでもあるんですが、伝えてしまっては少々つまらないかと思いまして」
「――つまらない……とは?」
「――僕の事を嫌っている段階で想いを告げた所で、答えは分かり切っているでしょう。驚く顔は見られると思いますが、それでは足りないんです」
「――……」
「――すみません、話過ぎました。忘れてください」
カーテンで仕切られた此方の部屋にまで伝わってくる、言葉にし難い不安定な空気。
マクファーデンの、言葉の意味は分からなかった。しかし、“想い人が居る”と彼の口から出た時、私の心の中に小さなしこりが生まれた事に気付いた。
私が先程彼に伝えようとした“好き”と、マクファーデンの言う“好き”は同じなのだろうか。もし同じなのだとしたら、マクファーデンが別の女性と恋仲になったら私はどう思うのだろう。彼に特別な感情を抱いている事は分かったが、彼が別の女性と恋仲になるという事が上手く想像出来ない。しかし生まれたしこりが不快感を放っていて、それを決して快くは思えなかった。
「嫉妬……?」
分からなかった筈の感情。
なのに、ふと今唐突に、その感情の意味を理解した気がした。
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