DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXXII 忠告と犯意-I

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 書斎暮らしを始めて約1週間。セドリックに気付かれる気配も無く、あの女ともこの1週間で1度しか接触していない。相変わらずマクファーデンには会えていないが、それでも大きな問題は起こっておらず、平穏な日常を取り戻しつつあった。
 ――と、思いたいところだが、ここ最近仕事の方があまり上手くいっていない。依頼者の質が極端に悪く、こじつけでしかないクレームに、人格否定や暴言、我儘に振り回されたりなど散々だ。
 そして今日は、そんな質の悪い依頼者の中でトップを誇る人物との面談。彼女は元々身分が低い女性だった様だが、運が良く貴族の三男に見初められそのまま結婚をした。俗に言う、玉の輿に乗った人物だ。故に、贅沢をした事が無かったらしい。 
 実際、横柄な態度を取られる事は、貴族を相手にする仕事をしている以上当たり前にある事だ。どれだけ金を稼ごうと私は貴族にはなれず、依頼者達からすれば格下の人間でしかない。
 しかし“アレ”は例外だ。貴族の横柄な態度とは比にならない。少しでも機嫌を損ねようものなら商品を破壊し兼ねない程だ。
 流石に私1人の手には負えず、「今回の依頼者、すごいムカつくから一緒に来て」の一言でセドリックを同行させた。
 セドリックは、黙って座っているだけで絵になる男だ。過去にも、手に負えない依頼者と顔を合わせる時はセドリックを同行させていた。
 やはり、顔の良い男が居るからだろうか。横柄な態度を取っていた依頼者も大人しくなり、話が進め易くなったのは事実だった。
 しかし、今回の依頼者にそれは通用しなかった。セドリックを見るなり「誰だその男は」と騒ぎ立て、「顔が整っているというだけで調子に乗るな」とまで言って退けた。何処まで傲慢な女なのだとついうっかり口にしてしまいそうになった上に、隣でただ黙って話を聞いていたセドリックからも似た不満が痛い程伝わって来た。
 だがそれでも、途中で退室しようとしたセドリックに「出て行っていいと許可した覚えは無い」と口出しをしていた為、連れて行った効果は少なからずあったのかもしれない。――横柄な態度が変わる事は無かったが。

「いや、本当に申し訳ない」

 20時半の大通り。漸く依頼者に解放され、2人並んで帰路につく。
 本来であれば、もうとっくに家に帰っている時間だ。帰りの遅いセドリックに、家で1人待つエルは嘸かし心配している事だろう。
 隣のセドリックからは、疲労や不満などの感情が伝わってくるものの、何も言葉は返ってこなかった。彼らしいと言えば彼らしいが、文句の言葉が降ってこなかったのは意外である。
 やはり彼も、エルの夫となり少なからず性格が柔らかくなったのだろう。
 そんな事を考えていると、ふと何処からか“とある事件”を噂する声が聞こえた。それは、ここ最近ロンドン市内を騒がせている連続婦女暴行事件だ。未婚既婚関係なく、若くて美しい女性ばかりを狙った卑劣極まりない行為。
 もし仮にその犯人がこの街にいたとしたら、セドリックの妻であるエルが次の標的ターゲットになる可能性が非常に高い。エルは街でも美しい娘だと評判で、エルが既婚者だと知っていながらもエルに好意を寄せ、略奪を狙う輩も居る程だ。考えたくない事ではあるが、今迄エルが襲われなかった事が不思議な位である。
 セドリックは例の事件の事を、何処まで把握しているのだろうか。エルとセドリックの事は、他でも無い私が守らねばならないと常々思いながら生きているが、この様な事件から確実にエルを守れるのは夫であるセドリックだけだ。私はあくまで、他人の立ち位置から守る事しか出来ない。

「――そういえば例の事件、まだ終わってないみたいだね」

 直接的な言葉は使わず、なんと無しに彼に問い掛けてみる。

「終わるどころか、更に被害が増えてる」

 すると、曖昧では無いはっきりとした返答がセドリックから返って来た。
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