DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXXIII 慎重に-I

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「お待たせしましたぁ」

 女給の媚びた高い声と共にテーブルに運ばれてきたのは、パイントグラスに並々と注がれた安酒。セドリックと共に無言でグラスを手に取り、乾杯も無しに口を付け勢いよく酒を呷る。
 安酒というだけあって、なんとも言葉にし難い曖昧な味だ。ただただ強いアルコールに、無理矢理付けた香りと味。美味しいか不味いかで問われれば、不味いと答える味である。
 テーブルにグラスを置き、頬杖を突いて溜息を吐いた。

「あんたがまさか、この店を選ぶとはね……」

 首だけを動かし、店内を見渡す。女給の数は、主人を除いて4人。その中で、一際目を引く見目麗しい女性。

「……酒が安く飲める店なんて、此処くらいしかねぇだろ。それに――」

 彼の視線も、その美しい女性に止まった。

「被害者から聞き出すのが一番、手っ取り早いからな」

 あの女性こそが、先程セドリックが言っていた6人目の被害者、アリア・ベックフォードで間違いないだろう。客の席の間をひらひらと擦り抜けていく姿はまるで蝶が舞っているかのようで、踊り子というのも納得出来る美しさだ。

「……そんな事だろうと思ってたけど……。でもどうする気? いきなり警察でもない人間ひとに事件の事聞かれたら、あの子も身構えちゃうんじゃない? まさか、あの子の事買う気じゃないでしょうね?」

「俺が本気でそんな事すると思ってんのかよ。聞かなくたってどうせ全部分かってんだろ」

「今のあんたからは雑念しか流れて来なくて、肝心の内容が見えてこないんだよね。そう言うんだったらいつもの分かり易いセディで居てよ」

 揶揄う様に言って笑い、グラスに残った酒を飲み干す。
 その瞬間、隣から妙な感情が流れてくるのを感じた。先程迄の黒い感情とは違い、何かに絶望している様な、言葉にし難いものだ。グラスをテーブルに置き、隣のセドリックに視線を向ける。

「……」

 一体何があったというのか、セドリックが頭を抱える様にして項垂れていた。どうしたのかと問おうと口を開くが、それを遮る様に背後から女性の媚びる様な舌ったらずな声が聞こえてきた。

「おにーさん、どうしたの? 熱烈な視線を感じた気がしたんだけど……」

 目の前に現れたのは、丁度私達のお目当てであるアリア・ベックフォード。間近にしても、彼女からは事件の後遺症といえる心の傷は一切伝わってこない。本当に彼女が、事件の被害者なのだろうかと疑ってしまう程だ。

「あ!」

 そんな事を考えていると、彼女がセドリックの顔を見て声を上げた。

「もしかして、あの時のおにーさんじゃない!?」

 どうやら、彼女はセドリックの顔に見覚えがあったらしい。隣のセドリックは「はぁ……?」と迷惑そうに問い返しているが、アリアの顔には笑顔が浮かんでいた。
 彼女から伝わってくる音に、嘘偽りは無い。とても素直な性格をしている様だ。セドリックが助けを求める様に私に視線を寄越すが、彼女の心を探るには絶好の機会である。彼の視線には、自分で何とかしろ、という思いを込めて含み笑いを返しておいた。
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