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XXXIII 慎重に-II
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「私、おにーさんにもう一度会いたかったの! どうしても、おにーさんの事忘れられなくて……」
嬉々として話すアリアに、困惑しながらも思考を巡らせるセドリック。アリアが現れた事により、セドリックの心を覆い尽くしていた真っ黒な殺意が少しずつ晴れていっているのを感じた。昂った感情が落ち着いた事に、ひとまず安堵する。
“殺人計画は慎重に”
思い出すのは、あの手紙の事。
忘れてはいけない。セドリックが行動に移す前に、私が殺人計画を企てなくてはいけないという事を。
「ねぇ、その子本当に知らない子なの?」
耳打ちをする様に彼に顔を寄せ、問い掛ける。
「……知らない、とは言い切れないが……少なくても記憶には無い」
「でもその子、嘘はついてないっぽいんだよねぇ。記憶違いでも無さそうだし、今迄セディに迫った街娼の中の1人……とかなんじゃないの?」
「……だったとしても、そんなん顔なんかいちいち覚えてねぇよ」
顔が整った男は、これだから困る。彼が女から言い寄られる事も、彼がそれを一切相手にしていない事も今に始まった事では無いが、この様な状況では最早困却するしかない。
彼がこの様に女に興味が無いからこそ、エルと上手くやっていけているのだろうが、セドリックが少しでもアリアの事を覚えていたら状況は大きく変わっていただろう。彼と顔を見合わせ、共に溜息を吐く。
セドリックから酒の追加注文を受け、カウンターの方へ駆けて行くアリアの背を見ながら再び彼と顔を寄せ合った。
「本当、事件の後遺症無いのね。彼女から何も流れてこなかった事が一番吃驚よ」
「男に抱かれる事、慣れてるんだろうな」
視線の先のアリアは、店主と話しながら屈託の無い笑みを浮かべている。男性客に身体を触られても不快な感情が流れてくる事は無く、それどころかその男性客の肩に意味深に手を回しアフターのお誘いをしていた。
彼女は、被害を受けたのに傷を負っていない。それはどれだけ彼女を見ていても変わらない真実だ。しかし、1つだけ気になる事があった。
アリアから僅かに流れてくる、些細な音。それはハープの音色の様に温かく、柔らかい、恋心を思わせるものだ。
アリアは特定の誰かを想っている。しかし、それはセドリックでは無い。
客の1人だろうか。誰かが来るのを、ずっと待っている様だった。
だがそれよりも、今はもっと重要な事がある。それは、主犯格の男が去り際セドリックに残した言葉。
あの男は、セドリックに「人身売買のブローカーさん」と言ったのだ。つまりあの男は、セドリックの素性を知っている。もしや2人は、顔見知りの関係だったのだろうか。しかしセドリックからは、何も伝わってこない。
「……そんな事よりセディ、さっきの主犯格の男……知り合いなの?」
そう問い掛けてみると、私の言葉を遮る様に「んな訳ねぇだろ」と鋭い言葉が飛んできた。
「えぇ……でも、あの男はセディの事知ってるみたいだったけど……。あんま変に隠し事とかしないでよね。私の能力だって、全部読める訳じゃないんだから」
「別に何も隠してねぇって。あの男が誰かなんて、俺が一番知りてぇよ」
相変わらず彼の内心は雑念だらけだが、嘘はついていない様だ。小さく溜息を漏らし、再びテーブルに頬杖を突く。
彼がもう少し物覚えが良ければ――いや、人に関心があればの方が正しいだろうか――事件の事も、ある程度把握は出来ただろう。
フレッドと呼ばれたあの主犯格の男。セドリックが人身売買のブローカーだと知っているという事は、仕事で関りのあった人物だと考えるのが最も辻褄が合う。
エルを次の標的にしてはいる様だが、素性は未だ掴めていないらしい。故に、エルの夫がセドリックだという事も彼等は知らない筈だ。エル経由でセドリックの素性を調べた事は考えられない。
嬉々として話すアリアに、困惑しながらも思考を巡らせるセドリック。アリアが現れた事により、セドリックの心を覆い尽くしていた真っ黒な殺意が少しずつ晴れていっているのを感じた。昂った感情が落ち着いた事に、ひとまず安堵する。
“殺人計画は慎重に”
思い出すのは、あの手紙の事。
忘れてはいけない。セドリックが行動に移す前に、私が殺人計画を企てなくてはいけないという事を。
「ねぇ、その子本当に知らない子なの?」
耳打ちをする様に彼に顔を寄せ、問い掛ける。
「……知らない、とは言い切れないが……少なくても記憶には無い」
「でもその子、嘘はついてないっぽいんだよねぇ。記憶違いでも無さそうだし、今迄セディに迫った街娼の中の1人……とかなんじゃないの?」
「……だったとしても、そんなん顔なんかいちいち覚えてねぇよ」
顔が整った男は、これだから困る。彼が女から言い寄られる事も、彼がそれを一切相手にしていない事も今に始まった事では無いが、この様な状況では最早困却するしかない。
彼がこの様に女に興味が無いからこそ、エルと上手くやっていけているのだろうが、セドリックが少しでもアリアの事を覚えていたら状況は大きく変わっていただろう。彼と顔を見合わせ、共に溜息を吐く。
セドリックから酒の追加注文を受け、カウンターの方へ駆けて行くアリアの背を見ながら再び彼と顔を寄せ合った。
「本当、事件の後遺症無いのね。彼女から何も流れてこなかった事が一番吃驚よ」
「男に抱かれる事、慣れてるんだろうな」
視線の先のアリアは、店主と話しながら屈託の無い笑みを浮かべている。男性客に身体を触られても不快な感情が流れてくる事は無く、それどころかその男性客の肩に意味深に手を回しアフターのお誘いをしていた。
彼女は、被害を受けたのに傷を負っていない。それはどれだけ彼女を見ていても変わらない真実だ。しかし、1つだけ気になる事があった。
アリアから僅かに流れてくる、些細な音。それはハープの音色の様に温かく、柔らかい、恋心を思わせるものだ。
アリアは特定の誰かを想っている。しかし、それはセドリックでは無い。
客の1人だろうか。誰かが来るのを、ずっと待っている様だった。
だがそれよりも、今はもっと重要な事がある。それは、主犯格の男が去り際セドリックに残した言葉。
あの男は、セドリックに「人身売買のブローカーさん」と言ったのだ。つまりあの男は、セドリックの素性を知っている。もしや2人は、顔見知りの関係だったのだろうか。しかしセドリックからは、何も伝わってこない。
「……そんな事よりセディ、さっきの主犯格の男……知り合いなの?」
そう問い掛けてみると、私の言葉を遮る様に「んな訳ねぇだろ」と鋭い言葉が飛んできた。
「えぇ……でも、あの男はセディの事知ってるみたいだったけど……。あんま変に隠し事とかしないでよね。私の能力だって、全部読める訳じゃないんだから」
「別に何も隠してねぇって。あの男が誰かなんて、俺が一番知りてぇよ」
相変わらず彼の内心は雑念だらけだが、嘘はついていない様だ。小さく溜息を漏らし、再びテーブルに頬杖を突く。
彼がもう少し物覚えが良ければ――いや、人に関心があればの方が正しいだろうか――事件の事も、ある程度把握は出来ただろう。
フレッドと呼ばれたあの主犯格の男。セドリックが人身売買のブローカーだと知っているという事は、仕事で関りのあった人物だと考えるのが最も辻褄が合う。
エルを次の標的にしてはいる様だが、素性は未だ掴めていないらしい。故に、エルの夫がセドリックだという事も彼等は知らない筈だ。エル経由でセドリックの素性を調べた事は考えられない。
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