107 / 222
XXXIII 慎重に-III
しおりを挟む
「――まぁ、そんな思い詰めなくてもなんとかなるって」
セドリックの背をぽんと叩き、漸く席に運ばれてきた酒を手に取る。
今は、とにかく彼を刺激してはいけない。少しでも彼の意識を別の物に向けなければ。
しかし、そんな思い虚しく彼がぽつりと「良いよな、お前は他人事で」と言葉を漏らした。それと同時に流れてくる、主犯格への憎悪と後悔。
セドリックの事だ。きっと、あの場で主犯格を殺しておかなかった事を憂いているのだろう。
「やっぱ、あんたは考え方がまだまだ子供だよねぇ……」
あの予言の手紙が無くとも、私はあの時セドリックを止めていただろう。
それは言わずもがな、あの場で出て行って殺してしまえば、確実にセドリックの未来は絶たれるからだ。幾ら正義を主張したとしても、殺人を犯した者の言葉など誰も聞いてはくれない。
人を殺す為には、緻密な計画を組む必要がある。世の中に完全犯罪は無いと警察は主張しているが、そんな物幾らだって偽装出来るのだ。
今セドリックに必要なのは殺意じゃない。エルとセドリックの未来を守る為の完璧な殺人計画だ。
彼のジャケットの内ポケットに手を差し込み、シガレットケースとマッチを抜き取った。マクファーデンがしていた様にマッチに火を付け、咥えた煙草の先にそれを移す。
マクファーデンが吸えるものが、自身は吸えない。その事実が何だか腹立たしく、悔しく感じ、あれから1人、隠れて煙草を吸う様になっていた。最初こそ咽てしまい肺に煙を入れる事すらままならなかったが、今では大分吸えるようになった。
「……お前、煙草吸えたっけ」
彼の問い掛けに薄ら笑いで返し、煙を吸い込む。
「なんだろうね。あんたの考えが子供というよりも、私の考えが普通じゃないのかなぁ」
「……それは否定できねぇな」
自身に続く様に、セドリックが煙草を口に咥える。
「今回の件、他人事だなんて思ってないよ。セディは大事な弟みたいなもので、そんな弟が連れて来た可愛い奥さんを、邪険になんてする訳無いでしょ。エルちゃんを守りたいって思うのは、私も同じ」
「……あっそ」
「反応薄いなぁ」
指の間に挟んだ煙草には、薄っすらと紅が付いていた。それは、あの時マクファーデンが褒めてくれた紅では無い、ずっと昔から使っていた古い紅。金にもならない安物だ。
今此処で、マクファーデンを思い出す必要は無かった。しかし無意識的に煙草を取ってしまったのは、今回の計画に不安があるからなのだろう。
私に完璧な殺人計画を練る事は出来るのか。2人を、守る事は出来るのか。じわじわと広がっていく不安に、もうだいぶ長い間会っていないマクファーデンに縋りたくなってしまった。きっと彼なら、殺人などやめなさいと言う筈なのに。
「苛立ちは誤った選択の引き金になりかねない。冷静で居れば、選択肢は他にある事や、その選択をすればどうなるか、理想の結果にするにはどの選択をすればいいか、自ずと見えてくる。だから、あの時セディを止めたの」
「……殺す以外に、方法はあるってか?」
「いや別に? そうは言ってないよ」
「……なんだそれ。さっきは殺人は犯罪だとか道徳的な事ほざいてたじゃねぇか」
「あれはセディを止める為の出任せ」
やはり、煙草に慣れたといっても決して美味しいと感じるものでは無い。それに、マクファーデンを殺人計画に巻き込んでしまっている様な気がして、罪悪感に胸が痛んだ。半分程残った煙草をアッシュトレイに押し付け、息を吐く。
セドリックの背をぽんと叩き、漸く席に運ばれてきた酒を手に取る。
今は、とにかく彼を刺激してはいけない。少しでも彼の意識を別の物に向けなければ。
しかし、そんな思い虚しく彼がぽつりと「良いよな、お前は他人事で」と言葉を漏らした。それと同時に流れてくる、主犯格への憎悪と後悔。
セドリックの事だ。きっと、あの場で主犯格を殺しておかなかった事を憂いているのだろう。
「やっぱ、あんたは考え方がまだまだ子供だよねぇ……」
あの予言の手紙が無くとも、私はあの時セドリックを止めていただろう。
それは言わずもがな、あの場で出て行って殺してしまえば、確実にセドリックの未来は絶たれるからだ。幾ら正義を主張したとしても、殺人を犯した者の言葉など誰も聞いてはくれない。
人を殺す為には、緻密な計画を組む必要がある。世の中に完全犯罪は無いと警察は主張しているが、そんな物幾らだって偽装出来るのだ。
今セドリックに必要なのは殺意じゃない。エルとセドリックの未来を守る為の完璧な殺人計画だ。
彼のジャケットの内ポケットに手を差し込み、シガレットケースとマッチを抜き取った。マクファーデンがしていた様にマッチに火を付け、咥えた煙草の先にそれを移す。
マクファーデンが吸えるものが、自身は吸えない。その事実が何だか腹立たしく、悔しく感じ、あれから1人、隠れて煙草を吸う様になっていた。最初こそ咽てしまい肺に煙を入れる事すらままならなかったが、今では大分吸えるようになった。
「……お前、煙草吸えたっけ」
彼の問い掛けに薄ら笑いで返し、煙を吸い込む。
「なんだろうね。あんたの考えが子供というよりも、私の考えが普通じゃないのかなぁ」
「……それは否定できねぇな」
自身に続く様に、セドリックが煙草を口に咥える。
「今回の件、他人事だなんて思ってないよ。セディは大事な弟みたいなもので、そんな弟が連れて来た可愛い奥さんを、邪険になんてする訳無いでしょ。エルちゃんを守りたいって思うのは、私も同じ」
「……あっそ」
「反応薄いなぁ」
指の間に挟んだ煙草には、薄っすらと紅が付いていた。それは、あの時マクファーデンが褒めてくれた紅では無い、ずっと昔から使っていた古い紅。金にもならない安物だ。
今此処で、マクファーデンを思い出す必要は無かった。しかし無意識的に煙草を取ってしまったのは、今回の計画に不安があるからなのだろう。
私に完璧な殺人計画を練る事は出来るのか。2人を、守る事は出来るのか。じわじわと広がっていく不安に、もうだいぶ長い間会っていないマクファーデンに縋りたくなってしまった。きっと彼なら、殺人などやめなさいと言う筈なのに。
「苛立ちは誤った選択の引き金になりかねない。冷静で居れば、選択肢は他にある事や、その選択をすればどうなるか、理想の結果にするにはどの選択をすればいいか、自ずと見えてくる。だから、あの時セディを止めたの」
「……殺す以外に、方法はあるってか?」
「いや別に? そうは言ってないよ」
「……なんだそれ。さっきは殺人は犯罪だとか道徳的な事ほざいてたじゃねぇか」
「あれはセディを止める為の出任せ」
やはり、煙草に慣れたといっても決して美味しいと感じるものでは無い。それに、マクファーデンを殺人計画に巻き込んでしまっている様な気がして、罪悪感に胸が痛んだ。半分程残った煙草をアッシュトレイに押し付け、息を吐く。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる