DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXXIV 様々な思い-II

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 漸く、手探りで見つけ出した書斎。鍵の掛かっていないドアノブを回し、ゆっくりと扉を開く。
 開いた先も、当然暗闇だ。しかし、此処は私のプライベートスペースである。セドリックも足を踏み入れない場所だ。ベストのポケットからマッチ箱を取り出し、慣れた手付きでマッチを擦り火を付ける。オレンジ色の光がマッチの先に灯り、じわりと手元が温かくなった。
 しかしたった一つの光では、部屋全体を灯す事は出来ない。少し先の、本が詰まった棚がぼんやりと見えるようになった程度だ。まだまだ部屋は暗闇である。
 マッチの火が消えない様に慎重に書斎の中へ歩を進め、定位置にあるアームソファに腰掛ける。そして、サイドテーブルに置いていた燭台を手元に引き寄せた。
 天井に設置しているのは、蝋燭が10本と沢山のガラスがぶら下がったシャンデリア。本を読むには、充分な明るさが必要だ。その為に、この部屋を書斎にした際貯めた金をはたいてなるべく高価であり作りがしっかりした物を購入した。
 そのシャンデリアは、背伸びをすれば届く程の位置にぶら下げてある。かなり低い位置にある為不格好ではあるが、その都度ロープを緩めシャンデリアを下さなくて済む故に火を灯すのが楽だった。
 頭上まで持ち上げた燭台を傾け、溶けた蝋が垂れない様慎重にシャンデリアの蝋燭に火を移していく。
 蝋燭1つ1つに明かりが灯る度、シャンデリアからぶら下がるガラスに反射した光が拡散し部屋を照らしていく。10本全てに火を移した頃には、もう見えない場所など存在しない程に部屋が明るくなっていた。
 目を刺激する明るいシャンデリアを見つめ、ふと小さく息を吐く。
 酒が入っているからか、今はよく頭が回らない。考える為には、少々仮眠を取る必要がありそうだ。燭台をサイドテーブルに置き、ソファに身を投げる。
 
 酒は、強い方だ。数年前、まだブローカー業を始めて日が浅かった頃、酒場パブの一角を使い数人の男と飲みくらべをした事があった。相手は、自身より遥かに身体の大きな男達。その当時は自身がどれだけ酒が飲めるか分からなかった為、当然自身が呆気なく負けてしまうだろうと思っていた。傍観していた客達も、そうだっただろう。
 しかし私は、たった1人で身体の大きな男達に勝ってしまった。消費した酒の量は凄まじく、後に店の女主人から大層怒られたが、酒代は倒れた男達が全て持ってくれたのを覚えている。
 自身が酒に強いと知ったのは、その時だ。だが幾ら酒に強いとはいえ、正常な判断力まで維持が出来る訳では無い。今も、飲んだ酒の量はパイントグラス2、3杯程度であるが、思考力が鈍っているのが自分で分かる。

 数時間の仮眠で、思考が動く様になってくれれば良いのだが。そう思いながら、足元に落ちたブランケットを拾い上げた。脱いだ靴を床に転がし、膝を抱えてソファの上でブランケットに包まる。
 硬くとも、寝心地が悪くとも、足を伸ばして横になる事が出来たベッドが恋しい。1人掛けのアームソファの上で、膝を抱えて眠る位ならば、いっそ床で眠った方が良いのでは無いか、とすら思う。しかし一度床で眠ってみたところ、全身を痛めてしまい翌日仕事に手がつかなかった。
 身体が痛くなるのはソファの上も同じだが、床よりかはマシだ。それに、幾ら此処に風呂や脱衣所が備え付けられているとはいえ、借家に居た時の様に簡単に身支度を整える事が出来ない。寝癖を付けたまま1日を過ごすだなんて御免だ。
 そう考えると、やはりソファで眠る事が一番だと思えた。

 ソファの上でもぞもぞと動き、最も落ち着く体勢を見つけ瞳を閉じる。仮眠を取るならば、わざわざシャンデリアに明かりを灯さなくとも良かったのではないかと誰しもが思うだろう。しかし、私は暗闇の中で眠る事が嫌いだった。
 暗闇が苦手な訳では決してない。暗闇で眠る事が出来ない訳でも無い。
 それでも、自身の精神状態を保つ為に明るい場所で眠る様にしていた。

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