DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXXIV 様々な思い-III

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 ――人を救う為のこの能力。代償は、自身の精神を根こそぎ奪う莫大な不安だった。人の心を救う度に、人を守る度に、私は人の心を失った。
 いつしか自身の心は壊れ、正しい感情すらも分からなくなっていた。
 感じる相手の心。そして抗う事の出来ない共感。心の中に、他人が入り込んでくる。それは、他者が思う以上に苦しい事だ。
 共感する力があったから、人の心が救えた。しかし、自身はどうだろうか。自身の心は救われていない。寧ろ、崩壊へと突き進んでいる。今こうして不安に思っている事も、自身の正しい感情なのだろうか。不安に感じていると、錯覚しているだけではないのか。それすらも、今の私には分からなかった。
 それでも、エルとセドリックの事は守らなくてはならない。それが私の使命だ。生きている意味である。その感情が私のもので無かったとしても、2人の事は私が守らなくてはならないのだ。
 ブランケットの隙間から手を伸ばし、サイドテーブルに置かれたマクファーデンの本に触れた。表紙を撫で、隙間に挟んでいた紙を抜き取る。

 “When you have finished reading this, come and see me. 《これを読み終えたら、会いに来てください。》”

 他でも無い、彼の手によって書かれた文字。この紙から、少しでもマクファーデンの感情が読めたりしないだろうか。――そんなもの、無理に決まっている。考えるだけ無駄だ。
 馬鹿馬鹿しい、と思いながらもその紙にキスを落とし、そっと本の上に乗せた。


 ◇ ◇ ◇


 しんと静まり返った部屋。
 煩さを感じてしまう程の静寂の中、目を覚ます。今は何時だろうか。
 ブランケットに包まったまま頭だけを動かし、借家からそのまま持ってきた壁時計に視線を向ける。
 現時刻は4時半。陽が出る前の、黎明時だ。
 活動を始めるには少々早いが、このまま二度寝をする気分にはなれない。ブランケットから抜け出し、身体をぐっと伸ばす。
 だらりと身体から力を抜いて、棚の一角を見つめる事数秒。酒が残っている感覚は無いが、かといって抜けた感覚も無い。
 とりあえず、今分かっている事をリストアップしよう。頭の中を整理しなくては何事も始められない。
 重い身体でソファから立ち上がり、棚に並べていた本の隙間からノートを一冊取り出した。そしてその中から、何も書いていない白紙のページを切り取り、万年筆を片手にソファへ戻る。
 サイドテーブルを台にして、切り取った紙を置いた。そしてキャップを外した万年筆のペン先を、紙の上部に向ける。
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