DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
113 / 222

XXXIV 様々な思い-V

しおりを挟む

 ――それから、それ程時間が経過しただろうか。酷い音色に思考が侵され、最早時間の感覚すらもなくなっていた。
 玄関扉が開き、見知った顔――セドリックが顔を覗かせるも、彼は何も言わずに顔を歪めた。

「……無理、頭が割れる……」

 そんな彼への第一声は、挨拶でも日常会話でも無い、自身の苦痛。
 あまりの騒音に、今此処へ来たセドリックが何を考えているかすら読み取れない。

「……吐きそう」

「此処で吐くなよ」

 彼がちらりと二階を一瞥した後、向かいのソファに足を組んで座る。
 この騒音の中、何故そんなにも涼しい顔をしていられるのか。

「何であいつが此処に居るんだ。色々面倒な奴だから、此処には入れるなって言っただろ」

「私があいつを自ら此処に招くわけ無いでしょ。気が付いたら入ってきてたんだよ……」

 本来であれば、この程度の反論では済まない。私が誰よりも“あいつ”を嫌っているのはお前も知っているだろうが、位の事は言ってやりたかったが、騒音の所為で言葉を紡ぐのも精一杯だった。
 耳を刺す様な音色に、激しい頭痛。ぐらぐらと、眩暈までしてくる。
 彼はセドリックの客だ。それをセドリックに伝えれば済む話である。しかし、今の私にはそこまで考えが及ばず、そして怒りは頂点に達した。

「あぁもう! 煩い!」

 力任せにテーブルを強く叩き、ソファを倒さんばかりの勢いでその場に立ち上がった。スカートが捲れるのもお構いなしに大股で向かうのは、二階にある隠された部屋――シークレットルーム。所謂武器庫である。
 人の脳を破壊する程の威力があるのではないかと錯覚する程の煩さに、最早音の出所が分からない。だが、彼が居るとしたらその部屋しか無いだろう。
 彼は、銃やナイフが格納された武器庫を甚く気に入っていた。それに、彼が現在奏でているヴァイオリンも確か武器庫に投げ入れられていた物の筈だ。
 何故武器庫にヴァイオリンなんて物があるのか。それは、年月をかけて武器庫が物置に成り代わったからである。
 ヴァイオリン以外にも、壊れた時計や穴の開いたソファなんて物も押し込まれている。

「ちょっと! ルーシャ!」

 ヴァイオリンの音色にも負けない程の大声を上げ、武器庫の扉を蹴り開く。
 瞳に入ったのは、格納された銃器に囲まれる様にしてヴァイオリンを奏でる男――ルーシャの姿。予想が的中した事は幸いだったが、音色に近付いた事によって耳や脳が壊れそうな程の不快感が倍増した。

「相変わらず野蛮な女ね」

 ヴァイオリンを奏でる手を止める事なく、ルーシャがちらりと此方を一瞥した。

「それ! ヴァイオリン! いい加減にして!」

 耳を塞ぎながら、怒鳴る様に叫ぶ。

「なんであんたに指図されなきゃいけないのよ」

「此処は私とセディの所有地なの! あんたが好き勝手していい場所じゃないの!」

「だったらちゃんと玄関に鍵かけておきなさい」

「かけてたってば! あんたが勝手にピッキングして開けたんでしょ!」

「さぁ、どうだったかしら」

 ルーシャは未だ、ヴァイオリンを奏でる手を止めない。会話をしていても尚その不快な音を止めないなんて、最早嫌がらせだ。それ程私は恨まれているのだろうか。果てしなく腹の立つ男である。
 その不快なヴァイオリンの音色を聞き続けた事で精神が不安定になってしまったのか、苛立ちが頂点に達し思わず手近な場所にあった短剣ダガーを掴んだ。素早く鞘から短剣ダガーを引き抜き、ルーシャの背中目掛けて刃先を思い切り振り下ろす。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...