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XXXIV 様々な思い-V
しおりを挟む――それから、それ程時間が経過しただろうか。酷い音色に思考が侵され、最早時間の感覚すらもなくなっていた。
玄関扉が開き、見知った顔――セドリックが顔を覗かせるも、彼は何も言わずに顔を歪めた。
「……無理、頭が割れる……」
そんな彼への第一声は、挨拶でも日常会話でも無い、自身の苦痛。
あまりの騒音に、今此処へ来たセドリックが何を考えているかすら読み取れない。
「……吐きそう」
「此処で吐くなよ」
彼がちらりと二階を一瞥した後、向かいのソファに足を組んで座る。
この騒音の中、何故そんなにも涼しい顔をしていられるのか。
「何であいつが此処に居るんだ。色々面倒な奴だから、此処には入れるなって言っただろ」
「私があいつを自ら此処に招くわけ無いでしょ。気が付いたら入ってきてたんだよ……」
本来であれば、この程度の反論では済まない。私が誰よりも“あいつ”を嫌っているのはお前も知っているだろうが、位の事は言ってやりたかったが、騒音の所為で言葉を紡ぐのも精一杯だった。
耳を刺す様な音色に、激しい頭痛。ぐらぐらと、眩暈までしてくる。
彼はセドリックの客だ。それをセドリックに伝えれば済む話である。しかし、今の私にはそこまで考えが及ばず、そして怒りは頂点に達した。
「あぁもう! 煩い!」
力任せにテーブルを強く叩き、ソファを倒さんばかりの勢いでその場に立ち上がった。スカートが捲れるのもお構いなしに大股で向かうのは、二階にある隠された部屋――シークレットルーム。所謂武器庫である。
人の脳を破壊する程の威力があるのではないかと錯覚する程の煩さに、最早音の出所が分からない。だが、彼が居るとしたらその部屋しか無いだろう。
彼は、銃やナイフが格納された武器庫を甚く気に入っていた。それに、彼が現在奏でているヴァイオリンも確か武器庫に投げ入れられていた物の筈だ。
何故武器庫にヴァイオリンなんて物があるのか。それは、年月をかけて武器庫が物置に成り代わったからである。
ヴァイオリン以外にも、壊れた時計や穴の開いたソファなんて物も押し込まれている。
「ちょっと! ルーシャ!」
ヴァイオリンの音色にも負けない程の大声を上げ、武器庫の扉を蹴り開く。
瞳に入ったのは、格納された銃器に囲まれる様にしてヴァイオリンを奏でる男――ルーシャの姿。予想が的中した事は幸いだったが、音色に近付いた事によって耳や脳が壊れそうな程の不快感が倍増した。
「相変わらず野蛮な女ね」
ヴァイオリンを奏でる手を止める事なく、ルーシャがちらりと此方を一瞥した。
「それ! ヴァイオリン! いい加減にして!」
耳を塞ぎながら、怒鳴る様に叫ぶ。
「なんであんたに指図されなきゃいけないのよ」
「此処は私とセディの所有地なの! あんたが好き勝手していい場所じゃないの!」
「だったらちゃんと玄関に鍵かけておきなさい」
「かけてたってば! あんたが勝手にピッキングして開けたんでしょ!」
「さぁ、どうだったかしら」
ルーシャは未だ、ヴァイオリンを奏でる手を止めない。会話をしていても尚その不快な音を止めないなんて、最早嫌がらせだ。それ程私は恨まれているのだろうか。果てしなく腹の立つ男である。
その不快なヴァイオリンの音色を聞き続けた事で精神が不安定になってしまったのか、苛立ちが頂点に達し思わず手近な場所にあった短剣を掴んだ。素早く鞘から短剣を引き抜き、ルーシャの背中目掛けて刃先を思い切り振り下ろす。
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