DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXXIV 様々な思い-VI

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「何するの、危ないわね」

 しかし、ルーシャは何事も無かったかの様な顔で刃先を避けて見せた。その行動ですら、腹立たしく感じてしまって仕方がない。
 漸く止んだヴァイオリンの音色。なんとか正気を取り戻し、短剣ダガーを鞘に戻す。

「あんたの目当ては、セディなんじゃないの」

「まぁ、そうなんだけどね。久しぶりに、此処が見たくなったのよ」

「勝手に入っていい場所じゃないんだけど」

「良いじゃない別に。貴女達に銃器を売ったの誰だと思っているの?」

「それとこれとは話が別でしょうが。それに、そこ等の銃はメンテしてないから多分ジャムって使い物にならないと思うよ」

「あら、それは困ったわね」

 腹立たしくも名残惜しそうに、ヴァイオリンを手近な場所に置いたルーシャがその場で大きく伸びをした。そんな彼の姿を尻目に、鞘に納めた短剣ダガーを元あった場所に投げる。

「セドリックはもう来ているの?」

「ホールに居る」

「あぁ、そう。私と久しぶりに会えて、喜んでくれるかしら」

「そんな訳無いでしょ。今迄の反応忘れたの?」

 セドリックも私も、ルーシャとは犬猿の仲だ。セドリックは口数が少ない分私の様に彼と口論になっている姿はあまり見ないが、それでも酷くルーシャを煙たがっていた。
 セドリックがルーシャと会って、良い顔をする訳が無い。事実、先程ホールでもルーシャが来ている事を知って面倒臭そうな顔をしていた。

「用事が済んだら早く出て行ってよね。私、今日は行く所あるんだから」

「あらそうなの? じゃあ、私が此処でお留守番をしておいてあげるわ」

「いやそんな事しなくて良いから。帰って」

 踵を返し、溜息を漏らしながら武器庫を後にする。私はこれからアリアの元へ向かい、あの事件の情報収集をしなければならないというのに、とんでもない展開になってしまった。
 何故あの男は、こうも邪魔をされたくない時に限って邪魔をしにくるのか。昔、まだルーシャと出逢ったばかりの頃もそうだった。漸く仕事が軌道に乗り、金銭に余裕があると有名で私が最も狙っていた貴族と接触が出来そうだった日。彼がこの屋敷に無駄に居座った所為でその貴族との面談が思う様にいかず、結局取引をする事は出来なかった。あの時の事は、未だに根に持っている。
 ルーシャは、私が心の底から早くくたばれば良いと思っている男だ。銃器を売った客から何らかの事情で逆恨みでもされて、撃ち殺されてしまえば良いのに。
 そんな事を考えながら階段を降りていると、ホールのソファで寛いでいたセドリックと視線が交わった。
 特にこれといった感情は伝わってこないが、複雑な表情を浮べていた為「あまりの煩さに殺してやろうかと思った」と一言呟く。

「――玄関の扉、板付けて釘でも打っといた方が良いのかな」

「そんな事しても、何処かの窓から入ってくると思うぞ」

「……これ以上あいつと居ると、いつか本当に殺しちゃいそう」

 先程、短剣ダガーを振り下ろした事を思い出し溜息交じりに嘆く。
 あの男だけは、殺しても神様は許してくれる。そんな気さえしてくるが、そんなの唯の妄言だ。あんな男でも、殺してしまえば立派な殺人である。
 テーブルに突っ伏し、悶々とルーシャの事を考えては1人腹を立てていると、突如カシャンと頭の近くに何かが投げられた。顔を上げ、それに視線を向ける。

「エルの体調が優れないらしい。様子を見に、ついでに話し相手にでもなってやってくれ」

「えっ、大丈夫なの? セディが行ってあげた方がいいんじゃない?」

「それが出来るなら最初からそうしてる。今日は急ぎで探し物があるんだ。頼む」

 彼から投げられたのは、じゃらじゃらと複数の鍵が付けられたキーリング。彼の言う“急ぎの探し物”とは、きっと例の事件に関わるものだろう。私も今日はその事件の事で用事があるのだが、なんて思いながらもキーリングを摘まみ上げ、目の高さまで持ち上げる。
 キーリングをゆらゆらと揺らし、付いた鍵がバラバラに動くのを眺めていると、ふとセドリックから妙な耳鳴りと共に不穏な感情が流れてきた。その感情を言葉にするのなら“背徳感”。そして彼の意識が、一瞬だけジャケットのポケットに向いた。
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