114 / 222
XXXIV 様々な思い-VI
しおりを挟む
「何するの、危ないわね」
しかし、ルーシャは何事も無かったかの様な顔で刃先を避けて見せた。その行動ですら、腹立たしく感じてしまって仕方がない。
漸く止んだヴァイオリンの音色。なんとか正気を取り戻し、短剣を鞘に戻す。
「あんたの目当ては、セディなんじゃないの」
「まぁ、そうなんだけどね。久しぶりに、此処が見たくなったのよ」
「勝手に入っていい場所じゃないんだけど」
「良いじゃない別に。貴女達に銃器を売ったの誰だと思っているの?」
「それとこれとは話が別でしょうが。それに、そこ等の銃はメンテしてないから多分ジャムって使い物にならないと思うよ」
「あら、それは困ったわね」
腹立たしくも名残惜しそうに、ヴァイオリンを手近な場所に置いたルーシャがその場で大きく伸びをした。そんな彼の姿を尻目に、鞘に納めた短剣を元あった場所に投げる。
「セドリックはもう来ているの?」
「ホールに居る」
「あぁ、そう。私と久しぶりに会えて、喜んでくれるかしら」
「そんな訳無いでしょ。今迄の反応忘れたの?」
セドリックも私も、ルーシャとは犬猿の仲だ。セドリックは口数が少ない分私の様に彼と口論になっている姿はあまり見ないが、それでも酷くルーシャを煙たがっていた。
セドリックがルーシャと会って、良い顔をする訳が無い。事実、先程ホールでもルーシャが来ている事を知って面倒臭そうな顔をしていた。
「用事が済んだら早く出て行ってよね。私、今日は行く所あるんだから」
「あらそうなの? じゃあ、私が此処でお留守番をしておいてあげるわ」
「いやそんな事しなくて良いから。帰って」
踵を返し、溜息を漏らしながら武器庫を後にする。私はこれからアリアの元へ向かい、あの事件の情報収集をしなければならないというのに、とんでもない展開になってしまった。
何故あの男は、こうも邪魔をされたくない時に限って邪魔をしにくるのか。昔、まだルーシャと出逢ったばかりの頃もそうだった。漸く仕事が軌道に乗り、金銭に余裕があると有名で私が最も狙っていた貴族と接触が出来そうだった日。彼がこの屋敷に無駄に居座った所為でその貴族との面談が思う様にいかず、結局取引をする事は出来なかった。あの時の事は、未だに根に持っている。
ルーシャは、私が心の底から早くくたばれば良いと思っている男だ。銃器を売った客から何らかの事情で逆恨みでもされて、撃ち殺されてしまえば良いのに。
そんな事を考えながら階段を降りていると、ホールのソファで寛いでいたセドリックと視線が交わった。
特にこれといった感情は伝わってこないが、複雑な表情を浮べていた為「あまりの煩さに殺してやろうかと思った」と一言呟く。
「――玄関の扉、板付けて釘でも打っといた方が良いのかな」
「そんな事しても、何処かの窓から入ってくると思うぞ」
「……これ以上あいつと居ると、いつか本当に殺しちゃいそう」
先程、短剣を振り下ろした事を思い出し溜息交じりに嘆く。
あの男だけは、殺しても神様は許してくれる。そんな気さえしてくるが、そんなの唯の妄言だ。あんな男でも、殺してしまえば立派な殺人である。
テーブルに突っ伏し、悶々とルーシャの事を考えては1人腹を立てていると、突如カシャンと頭の近くに何かが投げられた。顔を上げ、それに視線を向ける。
「エルの体調が優れないらしい。様子を見に、ついでに話し相手にでもなってやってくれ」
「えっ、大丈夫なの? セディが行ってあげた方がいいんじゃない?」
「それが出来るなら最初からそうしてる。今日は急ぎで探し物があるんだ。頼む」
彼から投げられたのは、じゃらじゃらと複数の鍵が付けられたキーリング。彼の言う“急ぎの探し物”とは、きっと例の事件に関わるものだろう。私も今日はその事件の事で用事があるのだが、なんて思いながらもキーリングを摘まみ上げ、目の高さまで持ち上げる。
キーリングをゆらゆらと揺らし、付いた鍵がバラバラに動くのを眺めていると、ふとセドリックから妙な耳鳴りと共に不穏な感情が流れてきた。その感情を言葉にするのなら“背徳感”。そして彼の意識が、一瞬だけジャケットのポケットに向いた。
しかし、ルーシャは何事も無かったかの様な顔で刃先を避けて見せた。その行動ですら、腹立たしく感じてしまって仕方がない。
漸く止んだヴァイオリンの音色。なんとか正気を取り戻し、短剣を鞘に戻す。
「あんたの目当ては、セディなんじゃないの」
「まぁ、そうなんだけどね。久しぶりに、此処が見たくなったのよ」
「勝手に入っていい場所じゃないんだけど」
「良いじゃない別に。貴女達に銃器を売ったの誰だと思っているの?」
「それとこれとは話が別でしょうが。それに、そこ等の銃はメンテしてないから多分ジャムって使い物にならないと思うよ」
「あら、それは困ったわね」
腹立たしくも名残惜しそうに、ヴァイオリンを手近な場所に置いたルーシャがその場で大きく伸びをした。そんな彼の姿を尻目に、鞘に納めた短剣を元あった場所に投げる。
「セドリックはもう来ているの?」
「ホールに居る」
「あぁ、そう。私と久しぶりに会えて、喜んでくれるかしら」
「そんな訳無いでしょ。今迄の反応忘れたの?」
セドリックも私も、ルーシャとは犬猿の仲だ。セドリックは口数が少ない分私の様に彼と口論になっている姿はあまり見ないが、それでも酷くルーシャを煙たがっていた。
セドリックがルーシャと会って、良い顔をする訳が無い。事実、先程ホールでもルーシャが来ている事を知って面倒臭そうな顔をしていた。
「用事が済んだら早く出て行ってよね。私、今日は行く所あるんだから」
「あらそうなの? じゃあ、私が此処でお留守番をしておいてあげるわ」
「いやそんな事しなくて良いから。帰って」
踵を返し、溜息を漏らしながら武器庫を後にする。私はこれからアリアの元へ向かい、あの事件の情報収集をしなければならないというのに、とんでもない展開になってしまった。
何故あの男は、こうも邪魔をされたくない時に限って邪魔をしにくるのか。昔、まだルーシャと出逢ったばかりの頃もそうだった。漸く仕事が軌道に乗り、金銭に余裕があると有名で私が最も狙っていた貴族と接触が出来そうだった日。彼がこの屋敷に無駄に居座った所為でその貴族との面談が思う様にいかず、結局取引をする事は出来なかった。あの時の事は、未だに根に持っている。
ルーシャは、私が心の底から早くくたばれば良いと思っている男だ。銃器を売った客から何らかの事情で逆恨みでもされて、撃ち殺されてしまえば良いのに。
そんな事を考えながら階段を降りていると、ホールのソファで寛いでいたセドリックと視線が交わった。
特にこれといった感情は伝わってこないが、複雑な表情を浮べていた為「あまりの煩さに殺してやろうかと思った」と一言呟く。
「――玄関の扉、板付けて釘でも打っといた方が良いのかな」
「そんな事しても、何処かの窓から入ってくると思うぞ」
「……これ以上あいつと居ると、いつか本当に殺しちゃいそう」
先程、短剣を振り下ろした事を思い出し溜息交じりに嘆く。
あの男だけは、殺しても神様は許してくれる。そんな気さえしてくるが、そんなの唯の妄言だ。あんな男でも、殺してしまえば立派な殺人である。
テーブルに突っ伏し、悶々とルーシャの事を考えては1人腹を立てていると、突如カシャンと頭の近くに何かが投げられた。顔を上げ、それに視線を向ける。
「エルの体調が優れないらしい。様子を見に、ついでに話し相手にでもなってやってくれ」
「えっ、大丈夫なの? セディが行ってあげた方がいいんじゃない?」
「それが出来るなら最初からそうしてる。今日は急ぎで探し物があるんだ。頼む」
彼から投げられたのは、じゃらじゃらと複数の鍵が付けられたキーリング。彼の言う“急ぎの探し物”とは、きっと例の事件に関わるものだろう。私も今日はその事件の事で用事があるのだが、なんて思いながらもキーリングを摘まみ上げ、目の高さまで持ち上げる。
キーリングをゆらゆらと揺らし、付いた鍵がバラバラに動くのを眺めていると、ふとセドリックから妙な耳鳴りと共に不穏な感情が流れてきた。その感情を言葉にするのなら“背徳感”。そして彼の意識が、一瞬だけジャケットのポケットに向いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる