DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XXXVIII 生と死-III

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「なら、別に此処で私を殺してもいいんじゃないの?」

 彼から距離を取る様に、一歩、また一歩と後退る。

「エルちゃんが起きる前に、全部終わらせて帰らなきゃね。早くしないと、時間無いんじゃない? それとも、セディには無理かなぁ?」

 ゆらりと彼の手が上がり、銃口が此方に向けられた。
 銃口を向けられる感覚は、慣れるものでは無いだろう。それに恐怖を抱かない人間は、きっと存在しない。死の恐怖が無い私ですら、不安や不快感を抱く程だ。

「セディはエルちゃんの王子様でしょ? ならちゃんと、守ってあげなきゃ」

 ハンマーが起こされ、彼の指がトリガーに掛る。
 私の煽る言葉に、確かに彼の中に怒りが蓄積されていくのを感じる。しかし、先程の様な殺意は感じない。

 ――大丈夫、セドリックは私を殺さない。

 仮に此処で、私の言葉をきっかけに彼が私を殺してしまったら。その時は、彼が私の計画を遂行する事は出来ないだろう。
 アルフレッドは、きっと私以上の煽り文句を口にする。それにいちいち感情的になっていたら、計画通りに事は進まない。

「早くしないと、大事なお姫様が狼に食べられちゃうよ?」

 きっと彼は今、何度も脳内で自分を落ち着かせようとしているのだろう。今の彼なら大丈夫だ。9割の確率で、私を殺したりはしない。
 しかし、その1割を引いてしまったら? 
 今のこの状況に、恐怖を抱いているのは何故だろうか。手が微かに震えてしまうのは何故だろうか。
 それは見慣れない銃口を見ているからか、それとも、頭に浮かんだマクファーデンの顔と関係しているのか。今の私には判断が出来なかった。

「――あぁでも、もう食べられちゃってるかもね」

 屋敷中に鳴り響いた、耳を劈く銃声。放たれた弾丸が、僅かに空気を揺らす。
 焼ける様な、熱い痛み。ソファに飛び散った赤い鮮血。
 一瞬、彼が残りの1割を引いてしまったのかと思った。走馬灯の様にマクファーデンとの会話が脳裏に浮かび、私はもう彼に会いに行く事は出来ないのだと思った。
 しかし、弾丸は私の腕を掠めただけだった。その事実に安堵しながらも、疑問が頭に浮かぶ。

「――手元が狂った? それとも、私の事を殺せなかったの?」

 疑問をそのまま口に出すと、彼が面倒臭そうに「相変わらず無駄口が多いな」と溜息を漏らしながらソファに腰を下ろした。

「最近、セディに凶器向けられる事多いなぁ。この前の首の傷、まだ治ってないんだよね」

 恐怖か安堵か、未だ震えの止まらない手で喉元に触れた。
 痛みは無いが、指先に僅かな凹凸を感じる。完治するには、まだ時間を要するだろう。

「お前が殺せって言ったんだろ」

「まぁ今回はね」

 笑いながら、彼と向かい合う様にソファに腰を掛けた。

「でも、律義に言う事聞くなんてセディは可愛いなぁ。別に私を置いて、出て行っちゃえばいいだけなのにね」

「……!」

 彼が、その発想は無かったと言わんばかりの顔で此方を見つめる。そんな彼の顔に、思わず吹き出すように笑ってしまった。
 笑ってしまっては彼に失礼だ。体を折り曲げ笑いを堪えるが、一度笑ってしまったものを押さえるのは中々厳しい。零れる笑いに肩を震わせていると、羞恥を滲ませた彼がクッションを此方に強く投げつけた。
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