DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XLII 悪魔は忘れた頃にやってくる-IV

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「前に話した私の男がギャンブルで儲けてね。この一ヶ月は割と楽に生活が出来たよ。借金も返せたしね。だが、まぁギャンブル依存というものは簡単には治らない。有り金全てつぎ込んで、また生活は困難になった」

「そんなの、知った事か! 自業自得だろうが!」

「知らない、ねぇ。本当にそんな口利いても良いと思ってるのかね」

 余裕を含ませた彼女の笑みに、以前セドリックとエルの事で脅された事を思い出した。
 しかし、今迄以上にセドリックはエルのすぐ近くにいる為、この女もそう簡単にエルに手を出したりなど出来ないだろう。

「……脅しとか、通用しないから。あの子の事はセディが守ってくれる筈。セディはあんたが思ってる以上に強いの。手出しは出来ない」

「誰が、あの2人に手を出すと言った?」

「……は? だって、前にあんた、2人の事を……」

 私の言葉は、彼女が徐に手にした石材によって止まった。ここらには、要らなくなった短い石材が無造作に詰まれている。彼女が手にしたのは、その一つだ。

「お前は黙って、私の言う事を聞いていればいいんだよ」

 彼女が勢いよく、その石材を振り上げた。
 ――避けるのは、簡単だ。幾ら石材が短く小さいとはいえ、素手よりかは遥かに動きが遅くなる。
 しかし、又もや私は“それ”を避ける事が出来なかった。
 振り下ろされた石材が額に命中し、焼ける様な痛みと共に生暖かい血液が顔を伝う。
 
「お前、診療所の医者の女だろ。あの医者は見る限り、金を大分持っている様だ」

「――!」

「あの男が払うか、お前が払うか、どっちか決めな」

「待って! 先生は関係ない!」

「じゃ、お前が払うんだね。今回は借金が多いんだ。……そうだね、10ポンドあれば足りるかな」

「はぁ!? そんな大金払える訳無いでしょ!?」

 前回と同じ様に、彼女は決して“払えなくはない金額”を提示してくると思っていた。しかし、その考えは甘かったことを悟る。
 10ポンド。それは、セドリック程の貯えがある人間ならば多少無理をすれば払えるかもしれない。だが、私の様な人間にはとても用意できる額では無い。それこそ、借金でもしない限り払えないだろう。

「じゃああの医者に払ってもらうよ」

「私と先生は何の関係も無い。だから、先生があんたに金を払うとは思えない」

「さぁ、それはどうかな。自分の女がいたぶられても尚、黙ってる程情が無い人間には見えなかったが」

「私は、先生の彼女なんかじゃない! 先生には別に好きな人がいるの、私があんたにいたぶられようと、先生には関係ない!」

「相変わらず、口が減らない女だね!」

 彼女が怒りを露わにし、僅かに血液の付着した石材を再び振り上げた。
 何とか避けようと身体を捻ったが、間に合う事は無く石材が頬を掠る。摩擦で皮膚が焼き切れたのを感じつつ、今の彼女は相当殺気立っている事を悟った。
 心を読んだところで、彼女の心情は“金が欲しい”その一心で、どうにか会話を成り立たせる事も諦めてもらう事も、待ってもらう事も出来そうには無い。
 背を反らした事でバランスを崩し、その場に尻餅を付く。しまった、と思ってももう遅い。
 再び振り下ろされた石材が、腕に叩き付けられる。
 
「暴力なんか振るったって、金は湧いてこない。私はどう頑張っても10ポンドなんて払えない。他を当たって」

 身体に感じる痛みに耐えながらなんとか訴えるが、私の言葉は彼女に届いていなかった。
 私を痛めつける事に最早快楽を感じ始めている彼女は、その石材を手放そうとも、会話をしようともしない。
 ただ、その顔に歪んだ笑みを張り付け、何度も何度も、私の意識が途絶えるまで石材を振り下ろし続けた。
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