DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XLII 悪魔は忘れた頃にやってくる-III

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 昼間だというのに外は薄暗く、おまけに霧雨が降っている。空は黒い雲で覆い尽くされており、次第に雨が強くなっていくのは明らかだ。
 用事がある、と言ってしまったが、当然ながら用事など無い。天気さえ良ければ何処かのベンチで本を読むことが出来たのだが、この天候ではそれも難しそうだ。
 今迄なら、この様な時はいつも診療所へ行っていた。でも、今はそれが出来ない。
 もうどれだけの期間彼と顔を合わせていないのか、と記憶を辿り指折り数えながら霧雨の中街の方向へと歩を進めた。

 ――街に来たからといって、特別何かがある訳では無い。時間を潰せる場所も無く、何処かの店に入れる程お金を持っている訳でも無かった。
 それに何より、髪や顔、服を湿らせる霧雨が鬱陶しい。こんな事になるのなら、外に出ずに2階の書斎へ籠ってしまえば良かったかもしれない。そうすれば、少なくとも誰かに邪魔される事無く読書に勤しむ事は出来た。
 肩から下げた鞄越しに本を撫で、服の袖で濡れた顔を拭いながら街を彷徨った。


 丁度、診療所が遠目に見えてきた時。無意識的に診療所へと足を運んでしまった自分自身に嫌気が差しながらも、どうしようかと道に佇んでいると、突如何者かに腕を強く引かれた。
 最初は、孤児の悪戯かと思った。若い女性が、孤児の少年に路地裏に連れ込まれ金を強請られる、という事例がここ最近多く、街では少々問題視もされている。
 しかし、今の私はお恵みをしてあげられる程金銭的に余裕がある訳でも無い。財布の中にはたったの5ペンス。一食分になるかすら怪しい金額だ。
 正直、今現在生活に余裕が無い為たったの5ペンスですら手放したくは無いが、孤児の少年に手荒な事をするのは意に反する。
 大人しく財布の中を見せ、5ペンスしか持っていない事を説明した後それを大人しく差し出すしか無いだろうか。溜息を吐き、引き摺り込まれた路地裏にてその人物の顔に視線を向けた。

 “The devil comes when he forgets.《悪魔は忘れた頃にやってくる。》”

 その顔を見て、あの黒い手紙のメッセージを思い出した。
 毛先に向かって赤みがかったブロンド髪に、カーディナルレッドの瞳。“この女”は、私にとって悪魔そのものだ。
 本当に、あの手紙通りになった。やはり、予言で間違いが無かった。

「……あんた、なんで」

 喉から絞り出した声は、情けない位に震えている。
 
「会わなくなって、一ヶ月位になるかね。どうだい、愛しの母親と会えず寂しかったか?」

「寂しい訳無いだろうが! やっとあんたが消えてくれて清々したと思ったのに! 何しに来た!」

「私が何をしに来たかは、お前の事だろう。聞かなくても分かるんじゃないか?」

 くつくつと楽し気に笑う彼女と反対に、激しい苛立ちが沸き上がる。
 この女から金を強請られ、私は生活が不安定になり借家まで手放した。それはもう一ヶ月以上も前の事になるが、未だに安定はしていない。
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