DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XLIV 嘘-II

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 彼がその様な反応をするのも当然だ。私は比較的反射神経が良く、転んだり落ちたりしそうになる事はあっても寸前で体制を立て直す事が出来る。故に、転ぶ事も、階段から落ちる事も無い。そんな私が階段から落ちたと言っても、まず信じないだろう。
 面倒だ、と少々思いながらも、頭に浮かんだのは2つの嘘。
 1つは、貸本屋で本を借り過ぎてしまいバランスを崩し、本の重さで咄嗟に体制を立て直す事が出来なかった。
 そして2つ目は、階段でバランスを崩した老人を助けようとしたが、自分自身も共に落ちてしまった。
 どちらを口にしても同じ結果になりそうではあるが、強いて言うならば前者だろうか。後者では、老人を庇ったのに何故顔に怪我を負ったのだと追及されれば言葉に詰まってしまう。

「あぁ、えっと、この前貸本屋さんで本借り過ぎちゃって、階段で足踏み外した時咄嗟に受け身取れなかったんだよねぇ」

「……」

 私の言葉を聞いた彼が、深い溜息を吐いて私から顔を逸らした。

「……そうか。まぁ、お前らしいと言えばお前らしいかもな」

 嘆いた彼の言葉からは多少の不信感が伝わってくるが、それでもどうにか信じてくれた様だ。ほっと胸を撫で下ろしつつ、彼の向かいのソファに座る。

「エルちゃんはどう?」

「最近はつわりも治まってきて、食事も少しずつ出来るようになってきてる。一応、元気にはしてるよ」

「そっか、良かった。ちゃんとあんたが守ってやんなよ」

「当たり前だろ」

 僅かに口元を緩めた彼からは、深い愛情が伝わってくる。エルが身籠ってから、彼は今迄にも増して変わった。エルに対してのみ心配性な一面があり、それが少々不安要素ではあるものの、今はそれも愛情の一種として捉えてしまっても良いだろう。あまり過度に心配する程のものでは無さそうだ。

「――エルは、いつも腹の子の事ばかり気にしてる。『無事子供が産まれてきますように』と毎晩祈る姿は何よりも美しく聖母を連想する位だ。きっと……良い母親になるだろう」

 彼からほんの一瞬伝わってきた、両親の事。
 そして“母親”という言葉にあの女の顔が脳裏を過った。
 私もセドリックも、言わずもがな“母親”というものに良い印象を抱いていない。セドリックは仕事柄、様々な母親を見ている為尚更だろう。しかし、私も彼も、エルは良い母親になると言い切る事が出来る。
 それ程に、彼女は心優しく“偽り”の無い子だ。私達の親の様には、きっとならない。

「――じゃあ、セディも良いパパにならなきゃね」

 あの女に殴られた額がズキリと痛むのを感じながら、彼に微笑みかけた。
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