DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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XLV 病気-II

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 彼が先程手にした薬品とは、なんだったのだろう。カーテンから離れ、戸棚に駆け寄った。そして戸をそっと開き、棚の中を覗き込む。
 彼が取り出したのは、液体の入った小瓶だった。それと同じ様な物が2つ、棚の中に残っている。
 やや躊躇いながらもその小瓶を手に取り、薬品名が書かれているラベルに視線を落とした。

 “Gamma-Hydroxybutyric Acid”

 書かれているのは、聞いた事の無い薬品名。そのラベルが見える様に棚に戻し、戸を開いたまま戸棚の近くに置かれている本棚から薬学書を取り出す。

「G……、Gamma……、Hydroxybutyric……」

 薬名を口にしながら、薬学書のページを捲っていく。しかし、幾ら探してもラベルに書かれた薬名と一致する薬が見つからない。
 薬学書というのを手にするのは初めてであり、当然探し方も分からない。だが、薬品名が分かっていればある程度は見つけられる筈だ。それが見つけられないという事は、この薬品は医薬品では無いのだろうか。

「――そこで何をしているんです?」

 突如耳元で聞こえた声に、思わず手に持っていた薬学書をその場に落としてしまった。
 慌てて拾い上げようと手を伸ばすが、背後から強く抱きしめられそれを阻まれる。

「興味の無い本は読まないんじゃなかったんですか?」

「いや、あの、これは……」

 あの女の事を問い詰めるべきか、それともこの薬品について問うべきか、将又薬学書を落としてしまった事を謝るべきか。どれも正しい様で、どれも違う気がした。

「――貴女が疑問に思っている事は、全て分かっていますよ。でも、貴女はそれを問う事が出来ない。ならば僕からお伝えしましょう」

 今迄聞いた中で最も甘い声と、耳に触れた唇の感触に身体が震える。それは恐怖か、甘心か。それすらも分からない程に、今の私は全ての事に混乱していた。

「貴女のお母様は病気なんです。ギャンブル依存の末に、実の娘に暴力を振るってしまう程の。僕は医者であり、更には貴女を心から愛している。だから、無償で貴女のお母様の治療を引き受ける事にしました。そこにある、Gamma-Hydroxybutyric Acidを使って」

「――……」

「しかしながら、Gamma-Hydroxybutyric Acidは学会でもはっきりとした作用は分かっていないんです。不眠症や鬱病、アルコール依存症、あとは麻酔薬にも使用が出来るのではないか、という話は上がっていますが、治験が行われていないので確証がありません。なので、貴女のお母様で治験をさせて頂こうと思いました。治療も出来る、そして薬品の効果も分かる。一石二鳥ですね」

「そ、それは治療とは言わない」

「おや? 何故ですか? 貴女に暴力を振るい、尚且つギャンブルに依存している。それは立派な病気であり、それを辞めさせるのが治療ですよ。でも安心してください。お母様の治療は本日で終了です。もう、あのお方は此処へは来ないでしょう」

「……どうして?」

 そう問うた自身の声は、酷く震えていた。彼の言葉に恐怖を抱いているのか、それともあの女にもう関わらなくて済む、あの女が彼に金をせびらなくて良かったと安堵しているのかは分からない。
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