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XLVI 夜-II
しおりを挟むどれだけ思い返そうとしても、前回此処へ来た時の事が思い出せない。あるのは、部屋に運ばれるなりベッドに寝かされ、傷の痛みに耐えながらぐったりとしていた記憶だけ。いつ彼がベッドに入ったのか、どの様な体制で眠っていたのか、など細かい事は全く思い出す事が出来なかった。
「――あれ、これ、結構まずい状況なのでは……」
ネグリジェに着替えながら、脱衣所で1人ぽつりと独言を漏らす。
エルが前に、眠る時は下着を身に着けないと言っていた為、それを真似して踝丈のネグリジェ1枚のみで眠る様になったが、今日ばかりはドロワーズの1枚位身に着けておいた方が良いだろうか。流石に、恋仲でも無い男性と共にベッドに入るのに下着を身に着けないのは品が無いを通り越して粗陋である。
彼なら特に気にしない様な気もしてくるが、どれだけ彼が変態的な発言をする人間でも下品な行動だけはしたくなかった。
しかし、下着を身に着けずに眠る開放感を知った今、それをする気にはあまりなれない。感覚的に言えば、私服のまま眠るのとそう大差ないからだ。
だが考えてみれば、エルは人妻だ。当然セドリックとの夜の営みもある訳で、下着を身に着けないのはその様な行為をする時に邪魔になるから、という意味だったのかもしれない。そんな事も知らずに呑気に真似などしてしまったが、その時点で間違いだったのではないか?
もし仮に、マクファーデンとその様な行為に発展してしまったら。彼だって男性だ。同じベッドで眠っていて、そんな気が全く起こらないという事は無いだろう。全ては私に魅力があればの話だが。
では、下着は身に着けない方が良いだろうか。性行為の際、女性の下着を脱がすのに苦戦し、挙句興覚めしてしまう、なんて話を聞いた事がある。
しかし、そこではたと気付く。これでは、私が彼との性行為を望んでいるみたいではないか。私はそこまで軽い女ではない筈だ。――多分。
「――マーシャ、随分と着替えに時間が掛かっている様ですが、本当にお手伝いしましょうか?」
ドロワーズを手に悶々と考えていると、突如脱衣所の扉がノック無しで開いた。思わず、持っていたドロワーズをその場に落としてしまう。
「ちょっと! 着替え中だったらどうすんの!」
「それを期待して開けたんですがね。着替え、終わってるじゃないですか」
「色々考え事してたの! 察してよ!」
「僕の事考えてたんですか?」
「そうだけど違う!」
「どっちですか」
床に落ちたドロワーズを彼に気付かれない様に棚の下に蹴り入れ、慌てて彼の背を押し脱衣所を出た。
結局、下着は身に着けていない。このまま同じベッドに入って良いものだろうか、なんて思い悩むが、悩んだところでもう脱衣所に戻る事は出来ない。
極力、彼とは距離を取って眠ろう。なんなら、床で眠っても良いかもしれない。しかしその考えは虚しく、ベッドに座って両手を広げた彼に断ち切られた。
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