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XLIX 友人の心-II
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「人の心が読める、なんて言わないわ。その人の事はその人にしか分からない、それは当然の事だもの。でも、今日1日貴女を見ていて、とても苦しんでいる様に見えた。貴女は笑顔を絶やさなかったけれど、その笑顔の裏には悩みや苦しみがあるんじゃないかしら」
「――……」
彼女の言葉に、ぼんやりとマクファーデンの事を思い出す。
彼は、様々な思いを私に聞かせてくれた。しかし私は、彼の心が読めない故にその言葉を信じきれていない。人間は皆息をするのと同じ位簡単に嘘を吐き、他人を騙す。それを、私は見てきているからだ。
しかし、読めないからと言ってずっと疑心暗鬼になっている訳にもいかない。ある程度は割り切って、彼と接していかなくてはならないのだと言う事は分かっている。
「エルちゃんはさ、セディの愛情を信じてる?」
彼女から視線を外し、再び噴水へと目を向ける。
そこでふと目についたのは、噴水に向かってコインを投げる青年の姿。そういえば“この噴水にコインを投げれば願いが叶う”、などと言った眇眇たる噂が流れているのを思い出した。
恐らく、イタリアのトレヴィの泉を真似て誰かが始めたものに、余計な尾鰭背びれがついて広まってしまったのだろう。
あの青年は決して叶えたい願いがある訳では無く、面白半分で行っている様だった。きっと、皆そんなものだ。あの噂を本気にしている人間などいない。
「――勿論、信じているわよ」
私の思考を止めたのは、エルの短い返答。彼女に問いを投げかけておきながら、別の事柄に気を取られてしまっていた事に心の内で反省する。
「でも、“信じる”って都合の良い言葉よね。彼の本心なんてわからないわ。妊娠を受け入れてくれた事も、愛してると言ってくれた言葉も、全て偽りかもしれない」
「……」
「私、死が怖く無いの。死よりも怖いのは、セドリックの愛情を失う事。だから、もし彼の愛情が全て偽りだったなら、私は間違いなく死を選ぶでしょう」
「死を……?」
「えぇ、そう。褒められた行為では無いのは分かっているわ。でも、私はそれ程セドリックを愛しているの。彼が居なくなったら、彼の愛情がなくなったら生きていけないの。だから、彼の愛が偽りだったのなら死を選ぶ。それが、私の逃げ道よ」
「逃げ道……?」
エルの言葉を鸚鵡返しに問うと、彼女が再び笑った。
「だって、逃げ道でも無いと心がもたないでしょう? 人の愛を疑い始めたら、不安や恐怖から抜け出せなくなってしまう。人の心を知る術なんて、この世に無いのよ。だから、私は都合良く“信じる”なんて言葉を使って、彼の愛を真実だと思い込んでる。そうでもしないと、私は幸せにはなれないから」
「……そっか」
愛が偽りだった時は、死を選ぶだけ。
そんなエルの言葉に、心の中にもやもやと広がっていた不安や恐怖などの感情がすとんと落ちた気がした。
私も、死に恐怖は無い。自死は考えた事が無かったが、きっとその様な状況になった時は躊躇いなく死を選べるだろう。
「――あぁ、でもそうね……。愛が偽りだったとしたら私、セドリックの事を殺してしまうかもしれないわね」
「えっ」
「うふふ、だって彼の事、誰にも渡したくないもの。悪魔に魅入られたと思って、セドリックには諦めて貰うしかないわね」
「それは……想像したくないなぁ……」
「私だって、現実にはしたくないわ」
彼女の言葉に、ふとセドリックの両親の事を思い出した。彼の父親も、今のエルと同じ気持ちだったのだろうか。セドリックは「エルは両親とは違う」と言っていたが、そう考えてみればエルも彼の両親も似た性格をしている様に感じられた。
勿論、セドリックがエルを思う気持ちに嘘偽りが無い事は私が一番良く知っている為、それが現実になる事が無いのは分かっているが、なんだか聞いてはいけない事を聞いてしまった様に感じて表情が引き攣ってしまう。
「そんな顔しないで。愛なんてね、そんなものなのよ」
物騒な言葉とは裏腹に、エルの笑顔は少女の様に愛らしい。
そんな顔が出来るのはきっと、彼女の中に揺るぎない信念があるからだ。それだけが今、強く伝わって来た。
「――……」
彼女の言葉に、ぼんやりとマクファーデンの事を思い出す。
彼は、様々な思いを私に聞かせてくれた。しかし私は、彼の心が読めない故にその言葉を信じきれていない。人間は皆息をするのと同じ位簡単に嘘を吐き、他人を騙す。それを、私は見てきているからだ。
しかし、読めないからと言ってずっと疑心暗鬼になっている訳にもいかない。ある程度は割り切って、彼と接していかなくてはならないのだと言う事は分かっている。
「エルちゃんはさ、セディの愛情を信じてる?」
彼女から視線を外し、再び噴水へと目を向ける。
そこでふと目についたのは、噴水に向かってコインを投げる青年の姿。そういえば“この噴水にコインを投げれば願いが叶う”、などと言った眇眇たる噂が流れているのを思い出した。
恐らく、イタリアのトレヴィの泉を真似て誰かが始めたものに、余計な尾鰭背びれがついて広まってしまったのだろう。
あの青年は決して叶えたい願いがある訳では無く、面白半分で行っている様だった。きっと、皆そんなものだ。あの噂を本気にしている人間などいない。
「――勿論、信じているわよ」
私の思考を止めたのは、エルの短い返答。彼女に問いを投げかけておきながら、別の事柄に気を取られてしまっていた事に心の内で反省する。
「でも、“信じる”って都合の良い言葉よね。彼の本心なんてわからないわ。妊娠を受け入れてくれた事も、愛してると言ってくれた言葉も、全て偽りかもしれない」
「……」
「私、死が怖く無いの。死よりも怖いのは、セドリックの愛情を失う事。だから、もし彼の愛情が全て偽りだったなら、私は間違いなく死を選ぶでしょう」
「死を……?」
「えぇ、そう。褒められた行為では無いのは分かっているわ。でも、私はそれ程セドリックを愛しているの。彼が居なくなったら、彼の愛情がなくなったら生きていけないの。だから、彼の愛が偽りだったのなら死を選ぶ。それが、私の逃げ道よ」
「逃げ道……?」
エルの言葉を鸚鵡返しに問うと、彼女が再び笑った。
「だって、逃げ道でも無いと心がもたないでしょう? 人の愛を疑い始めたら、不安や恐怖から抜け出せなくなってしまう。人の心を知る術なんて、この世に無いのよ。だから、私は都合良く“信じる”なんて言葉を使って、彼の愛を真実だと思い込んでる。そうでもしないと、私は幸せにはなれないから」
「……そっか」
愛が偽りだった時は、死を選ぶだけ。
そんなエルの言葉に、心の中にもやもやと広がっていた不安や恐怖などの感情がすとんと落ちた気がした。
私も、死に恐怖は無い。自死は考えた事が無かったが、きっとその様な状況になった時は躊躇いなく死を選べるだろう。
「――あぁ、でもそうね……。愛が偽りだったとしたら私、セドリックの事を殺してしまうかもしれないわね」
「えっ」
「うふふ、だって彼の事、誰にも渡したくないもの。悪魔に魅入られたと思って、セドリックには諦めて貰うしかないわね」
「それは……想像したくないなぁ……」
「私だって、現実にはしたくないわ」
彼女の言葉に、ふとセドリックの両親の事を思い出した。彼の父親も、今のエルと同じ気持ちだったのだろうか。セドリックは「エルは両親とは違う」と言っていたが、そう考えてみればエルも彼の両親も似た性格をしている様に感じられた。
勿論、セドリックがエルを思う気持ちに嘘偽りが無い事は私が一番良く知っている為、それが現実になる事が無いのは分かっているが、なんだか聞いてはいけない事を聞いてしまった様に感じて表情が引き攣ってしまう。
「そんな顔しないで。愛なんてね、そんなものなのよ」
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そんな顔が出来るのはきっと、彼女の中に揺るぎない信念があるからだ。それだけが今、強く伝わって来た。
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