DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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L 愛の言葉-I

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「――ねぇ、先生」

 陽が落ち、暗い街を街灯が照らす20時半。仕事を終え診療所へと戻って来た私は、カーテンの奥の定位置であるテーブルについて足をぶらつかせていた。
 頭にあるのは、日中のエルの言葉。
 
 “もし彼の愛情が全て偽りだったなら、私は間違いなく死を選ぶでしょう”

 私はその言葉を聞いて、深く納得した。それと同時に、不安や恐怖も消え去った。
 では逆に、マクファーデンだったらどうだろうか。もし仮に、私の愛が嘘偽りだったなら。彼は、どんな行動を取るだろうか。

「先生を好き、って言葉が、全部嘘だったらどうする?」

 まるで、鎌を掛ける様な言葉だ。後に咎められても、おかしくは無いだろう。
 しかしそれでも、彼が何を考えているのか、彼がどう思うのか疑問が湧き立ち、抑える事が出来なかった。

「――嘘、なんですか?」

 デスクに向かって、いつも通りカルテを書いていた彼の手がぴたりと止まる。

「――嘘、かもね」

 静かにそう返答すると、彼がぽつりと、まるで独り言を漏らす様に「何故、そんな嘘を」と嘆いた。

「意味なんて無いよ。唯の気まぐれ。先生、顔が良かったし、先生の“好き”に付き合っても良いかな、なんて思って――」

 ガタリ、と彼が私の言葉を遮る様に勢いよく椅子から立ち上がる。その拍子に椅子が傾き、ゆらゆらと揺り籠の様に揺れた後、大きな音を立てて床に倒れた。

「信じられませんね、嘘だなんて。貴女の性格上、好きでも無い男に簡単に抱かれるとは思えない。その好きが嘘なら、何故僕の傍を離れなかったんですか? 何故、僕に黙って抱かれていたんですか?」

 彼がゆらりと此方に身体を向け、私に近寄る。思わず逃げる様に椅子から立ち上がると、彼が逃すまいと私の両肩を強く掴んだ。

「信じられない。分かっているんです、貴女が僕を愛しているのは。どうせ誰かに入れ知恵をされて、僕の愛が本物かどうか試しているのでしょう」

 流石は、長い期間私を見てきた医者だ。彼の言葉は限りなく正解に近く、言い訳が出来ない。
 しかし、肩を掴む手が彼の心の不安を物語っていた。

「そんなに知りたければ教えてあげますよ。僕がどれ程貴女を愛しているか」

 震えた、か細い彼の声。それと相反する、手の強さ。
 思い切り肩を突き飛ばされ、バランスを崩しその場に尻餅をついた。痛みに顔を歪めるが、彼はそんなのお構いなしに再び肩を掴み、床に私の背を叩き付ける。

 ――選択を、誤った。
 そう気付いた頃には、もう全てが遅かった。彼の表情は歪み、不安や恐怖、焦燥感が滲んでいる。
 私が余計な事を言ってしまった所為だ。どうすれば、何を言えば、彼の誤解は解けるのか。
 今迄なら、相手の心の内を読んで解決してきた。しかしマクファーデンにそれは通用しない。このままでは、彼は私を殺し兼ねない。そんな事になる前に、どうにか彼を宥めなければ。
 そう思った時、カーテンの向こう側からドアベルの音が鳴った。

「――エドワード先生、いらっしゃいませんの?」

 鼻につく、女の媚びた声。恐らく、患者では無くマクファーデン目当ての女だ。今迄にも、診察を必要としない女が彼に会いに来た事が何度かあった。
 眉目秀麗で、腕の良い医者だ。これ程物件の良い男など、街の女が放っておかないだろう。本当なら、彼に会わせたくはない。しかし、今だけはその女の訪問が好都合に思えた。

「……先生、患者さん来たよ。行ってあげなきゃ」

 彼の肩を叩き、静かにそう告げる。しかし、彼は私の顔をぼんやりと見つめたまま動かない。

「――エドワード先生」

 カーテンの向こう側で、女がマクファーデンを探しているのだろう。コツコツとヒールの音が診療所内に響いている。

「……先生」

 女の訪問を好都合だ、と一度は思ったが、考えてみればこれは私が撒いた種だ。彼を女の元へ遣った所で、何も解決はしない。
 彼の首に手を回し、ぐっと力を籠め引き寄せた。
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