DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
176 / 222

LII 堕落-I

しおりを挟む
 マクファーデンから首輪を嵌められて、どれ程が経過しただろう。最初の1週間は首に違和感を抱いていたが、今やもう気にならなくなる程に慣れてしまった。
 彼との関係は、静かに、けれど確実に形を変えてゆく。最初こそ純粋な恋愛だったが、お互いの欲望や不安等が交じり合い、今や歪な関係となってしまった。例えるのなら、“サディストとマゾヒスト”や、“依存関係”、“服従関係”と言うのが近いだろうか。恋愛に疎い私は、この関係を“愛が重い”の一言で片づけてしまって良い物なのかも、改善すべきものなのかもわからない。だがもし改善すべき関係だったとしても、今の私にはどうする事も出来ない様な気がしていた。
 その理由は、自分でも分かっている。彼に、依存してしまっているからだ。
 毎夜繰り返される性交渉も、飼い慣らされている事実も、悲観的に思うどころか寧ろ好適に思っている位だ。自らこの状況を変える事は出来ない。
 しかしながら、心の何処かではやはり不安に思っていた。“正常”に囚われる必要性はない、と思いつつも、まだ自分の中に人間の心が残っているのだろう。このままで良いのだろうかと一抹の不安が拭えずにいた。

 ふらふらとした足取りで、街の石畳の上を歩く。
 仕事の空き時間に、こうして当てなく街に出るのは久しぶりだ。曇った空を見上げ、息を吐く。
 なんと無しに足を向けたのは、街の小さな雑貨屋。商品を並べた台の奥で、退屈そうな顔をして座っているのは私の古い友人、ライリーだ。

「姐さん、相変わらずな顔してんね」

 そう声を掛けると、彼女が視線だけを此方に向けた。

「珍しいね、あんたが此処に来るなんて」

「うん、ちょっとね。姐さんと久々に話したくなって」

「どうせ下らん事で悩んでいるんだろう。あんたが私の所に来る時なんて、そういう時位だからね」

「流石姐さん、なんでもお見通し」

 彼女の言う通り、私は何か心配事や悩み事、不安がある時に此処を訪れる事が多い。勿論それ以外で訪れる事もあるが、殆どそうだと言って良いだろう。
 ライリーは決して、悩み相談に長けている訳では無い。しかし何故だか、彼女の言葉を聞きたくなってしまうのだ。

「今度はなんだい。私は別に、大した助言をしてやれる訳じゃないんだがね」

「別に助言が欲しい訳じゃないよ。ただ、姐さんの自論が聞きたいだけ」

「自論、ねぇ」

 彼女はやや面倒臭そうな反応をするが、構わず言葉を続ける。

「姐さんにとって、愛って何だと思う?」

 抽象的な質問だという事は、自分でも分かっている。しかし、これ以外に言える事が無かった。
 襟に結んだリボンを整えるフリをして首輪を指先でなぞり、顔を上げた彼女を見つめる。

「愛、なんて……。まさかあんたからそんな言葉が出てくるなんて思いもしなかったよ」

 驚愕した彼女は顔色を変え、私を見て目を瞬かせた。
 彼女が驚くのも無理もない。私は今迄彼女に愛の話をしてこなかっただけでなく、彼女が話す愛の話に耳を傾けた事も無かった。
 しかし、流石はライリーだ。状況を飲み込むのが早く、直ぐに「そうだねぇ」と言葉を漏らし考える素振りを見せる。

「これはあくまで私の考えだ。あまり触れ回るんじゃないよ」

「私が口硬いの、姐さんなら知ってるでしょ?」

「それもそうだね」

 彼女と顔を見合わせて笑い、そしてライリーが小さく息を吐いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...