DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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LIV 招かれざる客-I

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 週初めの昼下がり。悪天候の所為か、職場のホールには重々しい空気が流れている。
 そんな空気の影響で、今日は中々仕事をする気になれない。この後は特に面談の予定も入っていない為、今日は早めに仕事を切り上げ診療所へと帰っても良いかもしれない。
 そんな事をぼんやりと考えていた時、ふと背筋が凍る様な殺気を感じ取った。ティーカップを口元へ近づけていた自身の動作をぴたりと止め、近くのソファで書類を見つめているセドリックに視線を送る。すると次の瞬間、彼が大きな溜息を吐き書類を物凄い勢いでテーブルに叩き付けた。
 その背からは禍々しいオーラがじわじわと滲みだしているように見えてしまう程、今の彼は頗る機嫌が悪い。目つきは鋭く、彼の苛立ちや怒り、憎しみなどの負の感情が先程から棘の如くぐさぐさと突き刺さる。

「……うわ、機嫌わる。今のセディ目で人殺せそう」

 思わずそう呟くと、彼がきつく此方を睨みつけた。

 子供が産まれてからというもの、彼は随分と仕事に対する姿勢が変わった。以前迄は、売られた子供にも、その子供の親にも無頓着であり、どれだけ理不尽で腹立たしい依頼が来ても眉1つ動かさなかったというのに、今となっては依頼者の欠点ばかりが目に付く様で、定期的に手が付けられなくなる程に機嫌を悪くする。つい先程行われた依頼者との面談でも、相当厳しい言葉を使っていた様だ。客室の外まで、セドリックの怒り交じりの声が聞こえてきていた。

「今度は何、どんな親だったの」

 こんな時は、口を出さず干渉しないに限る。しかしながらどうしても好奇心がまさってしまい、ティーカップとソーサーを手に持ったまま彼の向かいのカウチに移動した。

「……可愛いから子供が欲しかったが、思っていた以上に子育てが大変で、尚且つ金も掛かるから要らなくなった、だと」

 私が心配では無く好奇心を抱いている、という事を察しながらも、彼が嘆く様に言った。
 以前の彼ならば、私がこうして尋ねても「お前には関係ない」等と言って突き放していただろう。抑々私が彼の仕事に口出しをする事もこうして尋ねる事も殆ど無かったのだが、彼が今の様に素直に仕事内容を私に話すのは非常に珍しいと言える。
 もう苛立ちを、自分自身でコントロールする事が出来ない様だ。私相手に愚痴を零してしまう程、彼は感情を乱し、そして疲弊している。

「うぅん、私としては、今迄の依頼者と何ら変わりないと思うんだけど」

「そんな事言われなくても分かってる。抑々、金が必要なら兎も角自分の都合で子供を捨てようとする親がこんなにも多い事が問題なんだ」

 彼が怒りに任せ、テーブルに片足を掛けた。瞬時にカウチから立ち上がり、此方に向かって蹴り飛ばされたテーブルを間一髪で回避する。
 随分と、彼らしくない行動だ。――いや、ある意味彼らしいのだろうか。
 彼はあまり感情を表に出す事が無い為、この様な行動を起こす事自体が珍しいのだが、考えてみれば彼は怒りが頂点に達した時物に当たる癖があった。それに、少々後先を考えない嫌いがある。

「……なんだよ」

 セドリックをじっと見つめていると、彼が声に苛立ちを滲ませ吐き捨てる様に問うてきた。

「いや、あんたも変わったなぁと思って」

 なんだか身の危険を感じ、彼から距離を取って繕う様にへらりと笑う。
 しかし今の彼は、私のこの言動すら癪に障るらしい。鋭い視線を向けられ、流石にこれ以上刺激するのはした方が良いだろうと口を噤んだ。
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