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LVIII 不穏な予感-III
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「し、少々、お待ちくださいませ」
客室の扉をそっと音を立てずに閉じ、深く息を吐いた。心臓の内側から殴られている様な動悸が煩く、私を急かす。
セドリックに、動揺を伝えてはいけない。この客室の中でどんな会話が行われるかは分からないが、私がこれ程取り乱していたら彼も不安になる筈だ。
自身の心臓の辺りを拳でトントンと叩きながら、「大丈夫、大丈夫」と自身に言い聞かせる様に繰り返し、深く深呼吸をする。
今は、セドリックに知らせるのが最優先だ。しかし、客人にお茶を出さない訳にもいかない。それに今は、少しだけ落ち着く時間が欲しかった。
再びあの男が待つ客室に入らねばならないと思うとぞっとするが、今の私は取り乱しすぎている。これではセドリックに怪しまれてしまう事間違いない。
キッチンに駆け込み、震える手でお茶の支度を始めた。
◇ ◇ ◇
お茶を持って客室へ入った時、カップに入った紅茶が零れてしまうのではないかと思う程に手が震えていた。カタカタと音を立てるカップに、男がいつ怒り出すかと内心気が気でなかった。しかし、驚く事に男は私に一切の関心を示していなかった。
彼の近くに居るだけで、金属が擦れる様な耳鳴りが脳を刺激する。心を読もうとしなくとも、深い絶望と殺意が自身の心の中に流れてくる。なのに、彼の意識は私に一切向いていない。それだけは分かった。
男の心の中は、何かとある事を軸に様々な物が回っている。セドリックも、その一部だろう。しかし、その“とある事”を覗こうとしても酷い耳鳴りと雑念が邪魔をして特定が出来なかった。
足早に客室を出て、先程と同じ様に自身を落ち着かせる様に心臓の辺りを拳で叩く。
この動悸は男から感じ取ったものが原因では無い、階段を駆け上がったからだ、と自身を錯覚させる為に、敢えて階段を2段飛ばしで駆け上がった。階段を上り切った先で、膝に両手を付き乱れた呼吸を整える。
あの男から離れたからだろうか。少し、動悸と恐怖心が和らいだ様な気がした。しかし、階段から客室に視線を向けると、まるで客室から悪い気が溢れ出ているかの様に見え心臓がどきりと跳ね上がる。
――とにかく、早くセドリックに伝えなければ。
額の汗を手の甲で拭い、霞む瞳で書類室へと向かった。
客室の扉をそっと音を立てずに閉じ、深く息を吐いた。心臓の内側から殴られている様な動悸が煩く、私を急かす。
セドリックに、動揺を伝えてはいけない。この客室の中でどんな会話が行われるかは分からないが、私がこれ程取り乱していたら彼も不安になる筈だ。
自身の心臓の辺りを拳でトントンと叩きながら、「大丈夫、大丈夫」と自身に言い聞かせる様に繰り返し、深く深呼吸をする。
今は、セドリックに知らせるのが最優先だ。しかし、客人にお茶を出さない訳にもいかない。それに今は、少しだけ落ち着く時間が欲しかった。
再びあの男が待つ客室に入らねばならないと思うとぞっとするが、今の私は取り乱しすぎている。これではセドリックに怪しまれてしまう事間違いない。
キッチンに駆け込み、震える手でお茶の支度を始めた。
◇ ◇ ◇
お茶を持って客室へ入った時、カップに入った紅茶が零れてしまうのではないかと思う程に手が震えていた。カタカタと音を立てるカップに、男がいつ怒り出すかと内心気が気でなかった。しかし、驚く事に男は私に一切の関心を示していなかった。
彼の近くに居るだけで、金属が擦れる様な耳鳴りが脳を刺激する。心を読もうとしなくとも、深い絶望と殺意が自身の心の中に流れてくる。なのに、彼の意識は私に一切向いていない。それだけは分かった。
男の心の中は、何かとある事を軸に様々な物が回っている。セドリックも、その一部だろう。しかし、その“とある事”を覗こうとしても酷い耳鳴りと雑念が邪魔をして特定が出来なかった。
足早に客室を出て、先程と同じ様に自身を落ち着かせる様に心臓の辺りを拳で叩く。
この動悸は男から感じ取ったものが原因では無い、階段を駆け上がったからだ、と自身を錯覚させる為に、敢えて階段を2段飛ばしで駆け上がった。階段を上り切った先で、膝に両手を付き乱れた呼吸を整える。
あの男から離れたからだろうか。少し、動悸と恐怖心が和らいだ様な気がした。しかし、階段から客室に視線を向けると、まるで客室から悪い気が溢れ出ているかの様に見え心臓がどきりと跳ね上がる。
――とにかく、早くセドリックに伝えなければ。
額の汗を手の甲で拭い、霞む瞳で書類室へと向かった。
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