201 / 222
LVIII 不穏な予感-IV
しおりを挟むふらふらとした足取りで、辿り着いた書類室の前。扉の横の壁に凭れ掛かり、息を深く吐く。
「――セディ」
なるべく落ち着いた声で、そう扉に向かって呼びかけた。
普段なら、ノック無しで書類室の扉を開く。しかし、今の私にはそれをする程の余裕が無かった。手は酷く震え、扉すらまともに開けられそうにない。
流石に、これでは彼の耳に声は届かないだろうか。そう思ったのも束の間、足音が此方に近付いて来るのが聞こえた。
金属が擦れる音が響き、扉が僅かに開かれる。セドリックが顔を出したのとほぼ同時に、「来客」と一言告げた。
彼から顔を逸らし、乱れた呼吸を悟られない様に息を止める。
「相談依頼か?」
「……」
「相手は?」
「……」
彼に問いを投げ掛けられるも、答える余裕は当然ながら無い。少しでも口を開けば、恐怖に声が震えてしまいそうだ。
彼は幸いにも、今の私を“恐怖に震えている”では無く“機嫌が悪い”と受け取った様だった。彼に恐怖が伝わっていない事に安堵しつつ、
「もうお茶は出してある。客室、早く行って」
と静かに告げる。
そしてこれ以上詮索をされない様に、睨む様に彼を一瞥し、その背を強く押した。
彼は、今までにない私の態度に少なからず疑問を抱いている様だった。素直に階段を降りて行く彼の背を見つめながら、止めていた呼吸を再開する。
身形を整える為だろうか、彼が洗面所へ直行し、その姿が見えなくなる。出来る事なら、セドリックには客室へ行って欲しくない。あの男と会って欲しくない。きっと、何か良くない事が起こる。私の勘が、全神経が、そう告げている。
しかし、直ぐに客室へ向かわなければ大変な事になる。どの道、不幸は避けられないだろう。階段をゆったりと降り、中間で足を止めた。
身形を整えた彼が、脱衣所から足早に出てくる。そして客室の前に立ち、不意に振り返り私を一瞥した。表情を変えぬまま見つめ返すと、彼がやや気まずそうに私から顔を背ける。
あの客室は、まるで呪いの巣窟だ。それ程までに、見ているだけで嫌なものを感じ取る。
どうか大きな問題にならない様に。
客室を4度ノックし、中へと消えていくセドリックの背を眺めながらただ願った。
◇ ◇ ◇
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる