DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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LVIII 不穏な予感-IV

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 ふらふらとした足取りで、辿り着いた書類室の前。扉の横の壁に凭れ掛かり、息を深く吐く。

「――セディ」

 なるべく落ち着いた声で、そう扉に向かって呼びかけた。
 普段なら、ノック無しで書類室の扉を開く。しかし、今の私にはそれをする程の余裕が無かった。手は酷く震え、扉すらまともに開けられそうにない。
 流石に、これでは彼の耳に声は届かないだろうか。そう思ったのも束の間、足音が此方に近付いて来るのが聞こえた。
 金属が擦れる音が響き、扉が僅かに開かれる。セドリックが顔を出したのとほぼ同時に、「来客」と一言告げた。
 彼から顔を逸らし、乱れた呼吸を悟られない様に息を止める。

「相談依頼か?」

「……」

「相手は?」

「……」

 彼に問いを投げ掛けられるも、答える余裕は当然ながら無い。少しでも口を開けば、恐怖に声が震えてしまいそうだ。
 彼は幸いにも、今の私を“恐怖に震えている”では無く“機嫌が悪い”と受け取った様だった。彼に恐怖が伝わっていない事に安堵しつつ、

「もうお茶は出してある。客室、早く行って」

 と静かに告げる。
 そしてこれ以上詮索をされない様に、睨む様に彼を一瞥し、その背を強く押した。
 彼は、今までにない私の態度に少なからず疑問を抱いている様だった。素直に階段を降りて行く彼の背を見つめながら、止めていた呼吸を再開する。
 身形を整える為だろうか、彼が洗面所へ直行し、その姿が見えなくなる。出来る事なら、セドリックには客室へ行って欲しくない。あの男と会って欲しくない。きっと、何か良くない事が起こる。私の勘が、全神経が、そう告げている。
 しかし、直ぐに客室へ向かわなければ大変な事になる。どの道、不幸は避けられないだろう。階段をゆったりと降り、中間で足を止めた。
 身形を整えた彼が、脱衣所から足早に出てくる。そして客室の前に立ち、不意に振り返り私を一瞥した。表情を変えぬまま見つめ返すと、彼がやや気まずそうに私から顔を背ける。
 あの客室は、まるで呪いの巣窟だ。それ程までに、見ているだけで嫌なものを感じ取る。
 どうか大きな問題にならない様に。
 客室を4度ノックし、中へと消えていくセドリックの背を眺めながらただ願った。 

 ◇ ◇ ◇
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