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LX 衝突-IV
しおりを挟む「カードに、私の血液を含ませておいた。それは分かったでしょう?」
彼女の問いに、小さく頷く。
「そして貴女は、数日前に指先に怪我を負った。その傷はまだ、塞がっていないのではなくて?」
「あっ……」
彼女の言葉に、慌てて自身の指先に視線を落とした。親指と人差し指は彼女の血で汚れたままだが、それでもはっきりと分かる人差し指に出来た切り傷。
これは約4日前、客室で割れたカップの後片付けをしている時に作ってしまった傷だ。思いの外深かった様で、4日経過した今でもぱっくりと皮膚が割れていた。
「その傷から血液が入り込む事を想定していたのだけれど、上手くいったでしょう?」
「……あの映像は未来なの? それとも現在?」
「さぁ、どうかしら」
最早嫌がらせだ。そう感じられる程、彼女がへらりと軽く笑って言った。その笑顔に我慢の限界が訪れ、拳で力強くテーブルを叩く。
「人の人生なんだと思ってんの? 予言はあんたの娯楽? 人が苦しんでんの見て楽しんでるわけ?」
私の言葉に、彼女の顔からふと笑みが消える。
「じゃあ、それを聞いて貴女に何が出来るって言うの? 私がそれを答える意味は? 未来は常に変動するもの。でも、もう手遅れ。未来は変えられない所まで来てしまった。予言を聞かないと言ったのは貴女の方よ。それで色々と教えてくれだなんて都合が良すぎるんじゃないかしら」
「……都合良いのはどっち。人の神経逆撫でする様な事ばかり言って、私には、貴女がこの状況を楽しんでいる様にしか見えない」
私とメイベルの間に、沈黙が訪れる。私を見つめる、ストロベリーピンクの双眸。それは穏やかな様にも、とても鋭いものにも見えた。
「……帰って」
彼女から視線を外し、ぽつりと呟く様に告げる。
「……貴女とはもう話したくない」
「あら、そう。残念だわ。貴女と私は近しい何かを持っているから、こうして話せるのを楽しみにしていたのだけれど」
「一緒にしないで。私は貴女の様に未来を見る事は出来ないし、それに人の心を掻き乱して笑ったりはしない」
「心外だわ。でも、そうね。今の貴女にはそう見えているのかもしれないわね」
彼女がソファから立ち上がり、無駄の無い動きでドレスの裾の皺を伸ばした。
そして何処から取り出したのか、テーブルにそっと折り目の無い綺麗な紙幣を置く。
「このドレスは頂いていくわね。洗面所にある私のドレスは処分してしまって構わないわ。これは……ほんの少しだけど、お礼よ」
彼女を一瞥し、その紙幣に手を伸ばした。軽く数えただけで、3ポンドはある。3ポンドと言えば、女性の一ヶ月の労働の対価と同等だ。彼女に与えたドレスは然程高価なものでは無く、1着に対してこれだけの額は貰えない。
「多すぎる」
そう一言呟き、紙幣を彼女に突き返した。しかし、彼女が私の手を包み込み押し返す。
「いいのよ。受け取って頂戴」
ひらりと1枚、握った事で皺の寄った紙幣が手から零れ落ちる。
「私こう見えて、お金はあるの」
「……どっかの貴族の令嬢だったり?」
「ご想像にお任せするわ」
ドレスの裾を翻し、彼女が玄関扉の方へ向かっていく。見送りなど、彼女には必要無いだろう。――いや、そんな事頼まれたってしたくはない。
3ポンドを握り締めたままソファに沈み込み、去っていく彼女の背を見つめる。
すると、ふと彼女が足を止め振り返った。見送りの催促だろうか。そんな事を思ったのも束の間、彼女が悪戯な笑みを浮かべて口を開いた。
「2:23 midnight. You will know the truth. You should consider the excuse for staying out without permission to darling.《深夜2時23分。貴女は真実を知る事でしょう。ダーリンへの無断外泊の言い訳は考えておいた方がいいわね》」
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