DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

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LXI 真実-II

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「あの後、どうなったの?」

 ソファに座るや否や、身を乗り出して彼に問う。彼を見ていれば、ある程度の察しというものは付く。故に、彼が自ら話始める迄黙っているべきだったのかもしれない。だが、それでも私はこの時間までずっと彼等の身を案じていたのだ。真実が知りたい、と思うのは間違った感情では無いだろう。
 しかし彼は、私からそう問われる事を分かっていた様で、眉1つ動かす事は無かった。

「――エルが買い出しに出ていた数十分の間に、娘2人が何者かに連れ去られた様だ」

 淡々とした、彼の言葉。彼は俯いていて、視線が交わる事は無い。
 彼の中にあるのは迷い、悲しみ、葛藤、焦燥感、自己嫌悪、怒り、そして僅かな安堵感。その安堵が何によるものなのかは分からなかったが、私が感じた安堵と同じものの様な気がしていた。

「確証は無いが、恐らく2人はスタインフェルド家に居る」

「……スタインフェルド家?」

 口の中で、その名前を繰り返し呟く。そして記憶を巡らす事数秒後、ある記憶とその名が一致した。
 その家は間違いなく、私の友人であるマリア・ウィルソンが取引した家だ。もう15年以上も前の事になるが、その両者の仲介を、セドリックが行った。
 一体何故、そんな昔の取引相手が今更彼の家族に干渉するのだろうか。理解が追い付かず、両手で頭を抱える。

「この前此処に来た男、覚えてるか。客室でカップを割って、暴れた男だ」

「……うん、覚えてる。あの男が今回の事に関わって――」

 そこまで言って、やっと気付く。あの男が、スタインフェルド家の人間――それも取引を行った張本人なのではないか。

「まさか、あの男が……」

「あぁ、そうだ。あの男が契約者であるラルフ・スタインフェルド。何らかの方法で娘2人を誘拐したんじゃないかって思ってる」

「待って、待って。って事は、精神異常者の……養女って……」

「お前も知ってるだろ。マリア・ウィルソンの娘、ノエル・スタインフェルドだ」

 鈍器で頭を殴られた様な。そんな衝撃が、自身を襲う。
 ノエルが精神異常者? そんな訳が無い。確かに彼女は物静かで表情豊かな子では無かったが、それでも怖がりで、心配症で、常に母親――マリアの事を気に掛けていた。絵本を読んでやると凄く喜んで、絵を描く事も好きだった。紙とコンテを渡した時、彼女がまだ拙い絵で一生懸命私とマリアの絵を描いてくれた事を今でも覚えている。
 そんな彼女が、精神異常者。
 有り得ない。理解が出来ない。納得も出来ない。きっと、周りの環境がそうさせたに決まっている。周りの環境が、スタインフェルド家の人間が、ノエルを変えてしまったに決まっている。きっとそうだ。そうじゃなければおかしい、説明が付かない。私が見ていたノエルはまだたったの3つだったが、それでも彼女に精神異常は無かった。見つからなかった。心の中だって純粋で、無垢で、穢れが無かった。透き通った子だった。

「わ、分からない。分からないの。なんで、なんで? なんでノエルちゃんが精神異常者なの? あの子は何をしたの? 何処が精神異常だったの?」

「……昔、スタインフェルド家の嫡男、キース・スタインフェルドが此処を訪ねてきたことがあった。その時彼は俺に、『君の娘は鏡に向かって話しかけたりするか?』と言って来た。はっきりとは言わなかったが、養女――ノエルはそんな不可思議な行動をとっていた様だ」

「……鏡に? そんな、ただの見間違いじゃ……」

「本人も、確かそう言っていたよ。見間違いかもしれない、って。でも、精神異常は強ち間違っていなかったのかもしれない」

「……どういう事?」

 心臓が早鐘を打ち、視界がぐらぐらと揺れ、歪みだす。彼の言葉にそう問うておきながら、彼のその先の言葉が読めてしまった。
 違う。これはただの、憶測だ。決して彼の心を読んだ訳では無い。そうであったのかもしれない、という推測でしかない。
 そう自身に言い聞かせるが、残酷にも彼はその先の言葉を包み隠さず告げた。
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