DachuRa 3rd story -天使と讃えられたのは、悲劇に堕ちた哀れな教唆犯-

白城 由紀菜

文字の大きさ
211 / 222

LXI 真実-III

しおりを挟む

「ノエルが、嫡男であるキースを刺し殺して逃げているらしい」

 ――呼吸が、止まる。
 人を刺し、逃げた? 誰が? ノエルが?
 そんな筈無い。ノエルはそんな事をする子では無い。きっと何かの間違いだ。
 そう、叫びたかった。小さな子供が癇癪を起こす様に、泣き喚いて「そんなわけない」「間違っている」と、そう言いたかった。
 だが、そんな事は出来ない。
 守るべきものは何だ? 救うべきものは何だ? どれだけ悲しかろうと、苦しかろうと、今私が守るべきものは、救うべきものはノエルじゃない。セドリックとエルの、娘2人だ。
 マリアは居ない。もう、この世に居ない。ノエルまで失いたくないという気持ちは大きいが、それよりも私は、セドリックとエル、そして娘達の4人を守り抜くと誓ったのだ。私は誓いを守れなかった。しかし、守れなかったと嘆き悲しむ訳にはいかない。守れなかったのなら、今度は救い出さなければならない。

「あの男が言った“責任”は、きっと息子を殺した女を寄越した俺への言葉だったんだろう。娘2人を誘拐して何をするつもりかは分からないが、子を失う苦しみを俺にも味わわせたかったんだろうな」

「……そう、だとしても、それをセディに言うのはおかしいでしょ! だって、契約書にサインもしてるんだよ!? もう15年も経ってるんだよ!? セディは無関係じゃん!」

「サイン、してないんだ」

「……は?」

 彼の言葉に、思考が止まる。
 サインをしていない? そんな事は有り得ない筈だ。サインが無ければ、契約終了にならない。彼はこう見えて仕事は慎重だ。そんな初歩的なミスを犯したりなどしないだろう。

「マリア・ウィルソンが持ってきた最後の書類――取引完了確認書には、契約者であるラルフ・スタインフェルドの名前が無かった。代わりにあったのは、令室のローズ・スタインフェルドの署名のみ。あの書類をマリア・ウィルソンから貰った時、丁度エルを屋敷から連れ去った時と被ってたんだ。エルの事で頭が埋め尽くされていて、俺はスタインフェルド家に、ラルフ・スタインフェルドにサインを貰いに行くのを忘れてしまった」

「そんな……、そんなの……!」

 ――そんなの、マリアのミスじゃないか。
 亡くなった人を、大切な友人を、悪く言いたくはない。それでも、少なくてもセドリックのミスでは無いだろう。
 頭を抱える手が震える。
 おかしい。こんなの間違っている。全てが狂っている。
 幾ら自身の息子を殺されたからといって、その責任をセドリックに押し付けるなんて。罪の無い子供まで巻き込むだなんて。抑々、ノエルが無意味に人を刺す筈がない。嫡男であるキースが、ノエルに何かをしたのではないか。家庭内暴力など、決して珍しい事では無い。
 刺される様な事をしたのは、キース・スタインフェルドの方ではないのか。
 頭が痛い。何も考えたくない。あの男は彼等の娘2人を攫って、殺すつもりなのだろうか。

「……早く、助けに行かないと。2人が危ない。明日にでも私が、スタインフェルド家に忍び込んで2人に接触出来れば……」

「駄目だ」

「なっ……なんで……! このままじゃ、2人は殺されちゃうかもしれないんだよ!?」

 彼が顔を歪め、両手で顔を覆った。

「……メイベル・バルフォアを、知っているか」

「!」

 彼の口から、あの女の名前が出た事に少なからず動揺する。しかし、あの女は確かに“少しだけセドリックと話した”と言っていた。彼があの女の事を知っているのは当然だろう。なにも不思議な事は無い。
 それに、此処で彼女の名を出すという事は、彼も何かしらの予言を受けたのだろう。彼の言葉に「知ってる」と一言だけ返し、続きを話すよう促した。

「あの女曰く、今の所人の死は見えていないらしい」

「……じゃあ、2人は」

「殺される事は、無いんだと思う。今は、な」

「今は、って、何……。それが覆る可能性もあるって事?」

 顔を手で覆ったまま、彼が苦しげな、今にも消えてしまいそうな声で「わからない」と一言漏らした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...