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XIV 訪問者-X
しおりを挟む「――でも、貴女が半端な覚悟で此処に来たって訳じゃない事は分かった」
マーシャが私を真っ直ぐに見据え、柔らかく笑う。
「嘘付いちゃったお詫び……ってのも変だけど、本当の事は教えてあげないとね。エルちゃんも、このままじゃ気が済まないでしょ」
正直、彼等は殺人等の法にもモラルにも反する仕事をしているという事を、真実だと思い受け入れたばかりだ。これから真実を告げられると言われても、中々ピンと来ない。
だがそれでも、今を逃したらきっともう聞く事は出来ないのだろうと、それとなく分かった。
今の私は、それを聞きたいとも知りたくないとも口に出して言う事は出来ない。その代わりとして、彼女の瞳を真っ直ぐに見据えた。
すると彼女が私の想いを察してくれたのか、顔に笑みを作り小さく頷いて見せた。
「――“ブローカー”って言って、分かるかな」
「……言葉は知っているけれど、具体的に何をする人なのかまでは……」
「馴染み無い言葉だもんねぇ。ブローカーは、物を売りたい人と、物を買いたい人の仲介をする人の事。私もセディも、17……位の時からかな。ブローカーを仕事にして生きてる」
彼女のその説明に、僅かに疑問が残る。
売買の仲介。それは、極一般的に行われている事であり、然程特別な事では無いだろう。思い返してみれば、私が好きだった書籍の中にもそれを仕事にしている人物がいた。
だがブローカーとは、それ程に安定した収入を得られるのだろうか。
「あはは、納得いってないって顔してるね」
「あっ、いや……」
表情に出てしまっていたのか、慌てて彼女から顔を逸らす。
「まぁその、私もセディから余計な事は言うなって言われてるからこれ以上の事は言えないんだけど。でもエルちゃんに用意したその服の入手経路は違法じゃないし、人殺しも強盗もしてない事は確かだよ」
「……そう」
一度は受け入れた事だとは言え、やはりそんな事実は無いに越したことは無い。彼等が罪人では無いという事が分かり、ほっと息を吐く。
だがすぐに脳裏を過ったのは、彼女の言葉の一部。
「……その話、私にしても大丈夫だったの?」
彼が“余計な事を言うな”とマーシャに伝えていたのであれば、きっとその仕事は私に知られたくなかった事柄なのだろう。それが合法的な仕事なのであればわざわざ隠す事でも無いと思うが、それでも彼の意思に反する形で知ってしまったのは不本意だ。
「……うぅん、この程度ならセディも怒らないと思うけど……。でも、私がこの事を言ったのは、セディには内緒にしておいて欲しいかなぁ」
「……勿論、言わないけれど……」
「あぁ、あと街の人達にもね。これから色々落ち着いたら街に出る事も増えてくると思うけど、街の人にセディの仕事を聞かれても知らないって言うか、もしくは“商人”とでも言って誤魔化しておいて欲しい」
彼女のその言葉に、曖昧に頷く。
ブローカーは、決して問題のある仕事では無い筈だ。法に触れる仕事でも無かった筈。なのに何故、彼等はそれ程迄に仕事を隠すのだろう。
ふと、脳裡に浮かんだその理由。それはただの憶測でしか無いが、もし真実なのであれば今迄感じた違和感全ての納得がいく。
「それって――」
セドリックの意思に反すると、分かっていながらも咄嗟に“それ”を訪ねようと口を開いた。
だがその言葉は、マーシャの鋭い瞳によって止められる。
――それって、もしかして法に触れる取引なの?
マーシャの細められた瞳が「それ以上聞くな」と言っている様で、言う筈だったその言葉を飲み込んだ。
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