DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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XV この目に映る物-III

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 思い返してみれば、こうして街の人と会話をするのはこの18年間で初めてだ。
 勿論セドリックもマーシャも“街の人”の括りに入る人物なのだろうが、彼等には少し違った印象を抱いている。
 こういう時、どの様に返答するのが正しいのだろう。社交界では、初対面の人物と会話をする際はまず初めに必ずカーテシーと共に自身の名を名乗る。だが街では“それ”をしない事位、世間知らずの私だって知っていた。

 貴族の人間だと、気付かれてはいけない。あくまで私は、彼等と同じ階級の街の人間だ。
 頭を捻らせた結果、得意の愛想笑いを顔に浮かべふらりとアクセサリーの並ぶ台へ近づいた。

「綺麗ね…これ、全て手作り?」

 自然に、動揺を表情に出さない様に。
 前屈みになり、台の上のアクセサリーを覗き込む。
 
 並べられているアクセサリーは、言葉の通り綺麗な物ばかりだ。
 アクセサリーには、宝石ばかりついていて重苦しいという印象しか持っていなかったが、それ等のアクセサリー達は布を合わせて縫って作られた物や、金属で花や鳥などを象った物ばかりで非常に愛らしい。

「手作りの物もあれば、仕入れてる物もある」

「そうなの…、凄いわね…」

 見れば見る程、その愛らしいアクセサリーに心惹かれる。アクセサリーなどに興味の無かった私でさえ、魅入ってしまう程の美しさだ。

「――お姉さん、見ない顔だね。どっから来たの?」

「!」

 不意に投げられた言葉に思考が止まり、思わず息を呑む。
 ロンドンの中心部から近い街だとはいえ、此処は下町といっていい場所だ。この様に店を開いていれば、ある程度街の人達の顔を覚える物であり、見覚えの無い人物がいれば目を引くのは当然だろう。

「…えっと…最近、この街に来て…」

 あれ程、父を怒らせない様に、父の望む娘になれる様に、顔色を伺いながら生きてきたのだ。その場を誤魔化す事には比較的慣れている。彼女に疑いを持たせない言葉等、幾らだってある筈だ。
 なのに、そのたった一言の問いに上手く返答する事が出来ない。
 この1週間で鈍ってしまったのだろうか。それとも、慣れない場所に居る所為で思考が上手く回らないのだろうか。
 出てこない言葉を努力でどうにかする事は出来ず、仕方無く愛想笑いで誤魔化した。

「…そう、最近この街に…ね」

 彼女のシルバーの瞳が、射貫く様にじっと私を見つめた。何か言いたげな表情に、冷汗が背を流れる。
 だがその直後、ふいに彼女の視線が私の背後に向けられた。

「誰かと思ったら、セドリックじゃないか!珍しいね、あんたがこんな所に来るなんて」

 彼女の表情がぱっと明るくなったと共に、頭上にゆらりと黒い影が揺れる。
 反射的に顔だけを背後に向け、その影の正体に視線を向けた。

「――あ…」

 女性顔負けの白く美しい肌に、艶やかな黒髪。そして、ぶつかりそうな程近づいた顔。瞳に捉えたそれ等の物に、思わず声を漏らす。
 彼の視線は商品台に向けられていて、彼がこの距離を自覚しているのかは分からない。だが少なくとも、不愉快そうな表情を浮かべ、私から顔を逸らした人との距離だとは思えなかった。
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