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XV この目に映る物-IV
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彼の気持ちが、感情が、何一つ読めない。
疎ましく思っているのか、将又なんの感情も抱いていないのか。
転びそうになったのを抱き留めたのだって、反射的に取った行動であり、彼は何も思っていないのかもしれない。
だが、なんの感情も抱いていない相手を自身のテリトリーである自宅に住まわせるだろうか。特に彼は、その容姿から女性に持て囃される事が多かった様だ。それ等になんの興味も抱かなかった彼が、初対面の女を、更には貴族の令嬢を屋敷から連れ出して迄共に行動するとは思えない。
彼に対しては、分からない事ばかりだ。人の感情など読めない事が当たり前なのだが、彼はその中でも特別分かりづらい。
いつかマーシャが、「セディは特に分かりやすいし、注意して見てたら性格とかも色々掴めてくるんじゃないか」と言っていたが、今の私にはその言葉が理解出来そうになかった。
「――あんた、セドリックの連れかい?」
その女性から投げかけられた問いに、こくりと頷く。
「へぇ、あの女に興味の無いセドリックが、女の子とデートだなんてねぇ」
「デート…という、訳では…」
曖昧にそれを否定すると、その女性がいつかのマーシャに似た笑みを浮かべた。それは、何処か揶揄う様な、だが嘲笑とは違った不思議な笑み。
「私はライリー・ワトソン。あんたは?」
極自然な流れで、此方の名を求められる。
これが街での自己紹介の仕方。そう関心を抱きながらも、ふとそこで、自身の名を簡単に名乗る事が出来ない事を思い出した。
幾ら隣町と言えど、エインズワース家は名家であり、その名を口にすれば直ぐに勘付かれてしまう。だからと言って、フルネームを名乗った相手にファーストネームだけで返すのは失礼にあたるだろう。
時間稼ぎは出来ない。1秒と時間が過ぎる度に、相手へ不信感を抱かせてしまう。早く、何か誤魔化せる名前を考えなければ。早く、早く。
そこで、頭に浮かんだ1つの名前。それは確かに、あの日の私に安堵を与えてくれた物。
「――エル・バートン、よ」
その名を無下にしないよう丁寧に口にし、彼女に笑顔を向ける。
「エルちゃんね、可愛い名前だ。よろしく」
なんの不信感も抱いていない様子で、彼女――ライリーが私に手を差し出した。安堵感で満たされた心のままに、その手を握る。
あの日、本当にこの名を名乗る日が来るなんて事思いもしなかった。それはモーリスだって同じだろう。
彼のあの時の言葉は、私を安心させる為のその場凌ぎだったに違いない。
安堵と感謝、それと、僅かな罪悪感。それ等の感情を胸に、ライリーから視線を外した。
握った手を離し、再び商品台に視線を落とす。
セドリックはというと、もう飽きてしまったのか、私から少し離れた位置で退屈そうに此方を見つめていた。
台に並んでいるアクセサリーは全て女性用で、男性からすれば興味の湧かない物なのだろう。なるべく早く切り上げ、彼の元に戻らなければと思いつつも、その魅力的なアクセサリーから中々目が離せない。
「――あら…?」
疎ましく思っているのか、将又なんの感情も抱いていないのか。
転びそうになったのを抱き留めたのだって、反射的に取った行動であり、彼は何も思っていないのかもしれない。
だが、なんの感情も抱いていない相手を自身のテリトリーである自宅に住まわせるだろうか。特に彼は、その容姿から女性に持て囃される事が多かった様だ。それ等になんの興味も抱かなかった彼が、初対面の女を、更には貴族の令嬢を屋敷から連れ出して迄共に行動するとは思えない。
彼に対しては、分からない事ばかりだ。人の感情など読めない事が当たり前なのだが、彼はその中でも特別分かりづらい。
いつかマーシャが、「セディは特に分かりやすいし、注意して見てたら性格とかも色々掴めてくるんじゃないか」と言っていたが、今の私にはその言葉が理解出来そうになかった。
「――あんた、セドリックの連れかい?」
その女性から投げかけられた問いに、こくりと頷く。
「へぇ、あの女に興味の無いセドリックが、女の子とデートだなんてねぇ」
「デート…という、訳では…」
曖昧にそれを否定すると、その女性がいつかのマーシャに似た笑みを浮かべた。それは、何処か揶揄う様な、だが嘲笑とは違った不思議な笑み。
「私はライリー・ワトソン。あんたは?」
極自然な流れで、此方の名を求められる。
これが街での自己紹介の仕方。そう関心を抱きながらも、ふとそこで、自身の名を簡単に名乗る事が出来ない事を思い出した。
幾ら隣町と言えど、エインズワース家は名家であり、その名を口にすれば直ぐに勘付かれてしまう。だからと言って、フルネームを名乗った相手にファーストネームだけで返すのは失礼にあたるだろう。
時間稼ぎは出来ない。1秒と時間が過ぎる度に、相手へ不信感を抱かせてしまう。早く、何か誤魔化せる名前を考えなければ。早く、早く。
そこで、頭に浮かんだ1つの名前。それは確かに、あの日の私に安堵を与えてくれた物。
「――エル・バートン、よ」
その名を無下にしないよう丁寧に口にし、彼女に笑顔を向ける。
「エルちゃんね、可愛い名前だ。よろしく」
なんの不信感も抱いていない様子で、彼女――ライリーが私に手を差し出した。安堵感で満たされた心のままに、その手を握る。
あの日、本当にこの名を名乗る日が来るなんて事思いもしなかった。それはモーリスだって同じだろう。
彼のあの時の言葉は、私を安心させる為のその場凌ぎだったに違いない。
安堵と感謝、それと、僅かな罪悪感。それ等の感情を胸に、ライリーから視線を外した。
握った手を離し、再び商品台に視線を落とす。
セドリックはというと、もう飽きてしまったのか、私から少し離れた位置で退屈そうに此方を見つめていた。
台に並んでいるアクセサリーは全て女性用で、男性からすれば興味の湧かない物なのだろう。なるべく早く切り上げ、彼の元に戻らなければと思いつつも、その魅力的なアクセサリーから中々目が離せない。
「――あら…?」
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