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XV この目に映る物-V
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目に入ったのは、大きな台の隅に追い遣られていた1本のペンダント。
鏡の様に周囲を写し込み、光を反射するそれは、他のアクセサリーとは似ても似つかない程に地味な物だった。
まるで他の店の商品が紛れ込んでしまったかのようだ。これ程愛らしいアクセサリーで溢れているというのに、何故そんな物が此処に並べられているのだろうか。
「何か気になる物でもあったのかい?」
「えぇ、これが…」
ライリーに尋ねられるままに、そのペンダントを指さす。
「こんな物に興味を示すなんて、あんただいぶ変わってるね。昔はこの手の物も数多く置いてたんだけど、やっぱ若い女の子からしてみりゃ『可愛くない』らしくって。売れる事も、手に取って貰える事も無いから、仕方なく数を減らして、今はこの1本だけなんだ」
彼女が徐にそのペンダントを手に取り、私の方へ差し出した。反射的に出した手の中心に、それがぽとりと落とされる。
細いチェーンの先に付いた、銀素材の楕円型のペンダントトップ。その中心には十字架が彫刻されていて、更には開閉式になっているのか側面に小さな凹凸があった。凹凸に指先を掛け、ゆっくりと開いてみる。
「――綺麗……」
開いた先に彫刻された聖母マリア。その美しさに、思わず声を漏らす。
アクセサリーという名の彫刻品を見ている様だ。永遠に見ていられる程の美しさに、ぼんやりと手の内のロケットを眺める。
「余程それが気に入ったんだね」
そんな私を見たライリーが、声を上げて笑った。
もしや、その美しさに見惚れるや否や、だらしない表情でもしてしまっていたのだろうか。慌てて表情を引き締め、「とても綺麗だったから」と言って彼女に合わせる様に自身も笑った。
「そんなに気に行ったんだったら、あいつに買ってもらえばいいじゃないか」
「あいつ…って…?」
ライリーが意味有り気な笑みを浮かべ、先程同様私の背後へと視線を向ける。それが何を意味しているか頭では理解していた筈なのに、ついついそれに釣られてしまい、自身も振り返って背後に視線を送ってしまった。
ぱちりと、交わった視線。
退屈そうな顔が訝し気な表情に変わり、視線の交わった人物、セドリックが徐に此方に歩み寄ってくる。
「だ、だめよ!セドリックには、迷惑を掛けたくないの!」
声を潜め、ライリーに強く訴える。
だが、ライリーは私の言葉など気に留める様子も無く、「アクセサリーの1つや2つ、男なら買ってやるのが普通だよ」と軽い口調で言ってセドリックに手招きをした。
近くに寄ってきた彼が、訝し気というよりも、最早面倒臭そうな顔をして私達に説明を求める。
「エルちゃんがこのペンダント、気に入ったんだってさ。あんた男だろ、買ってやんな」
「ちょっと…!」
少しも躊躇う事無くそう言って退けるライリーに、一気に鼓動が跳ね上がる。
ロケットペンダントは、まだ手の内に握ったままだ。早く弁解しなくては、と口を開こうとする物の、なんと言葉にしたらいいか分からず取り急ぎ否定を示す様に首を左右に振った。
だが私の思いはセドリックに届かず、彼の手が徐に私の手に重なる。
「…別に、欲しいならその位買ってやるけど」
思わず緩めてしまった手の内からロケットを摘み上げ、彼がそれをまじまじとそれを見つめる。そして金額を確認する様にチェーンの先に付いた値札へと指先を伸ばした。
鏡の様に周囲を写し込み、光を反射するそれは、他のアクセサリーとは似ても似つかない程に地味な物だった。
まるで他の店の商品が紛れ込んでしまったかのようだ。これ程愛らしいアクセサリーで溢れているというのに、何故そんな物が此処に並べられているのだろうか。
「何か気になる物でもあったのかい?」
「えぇ、これが…」
ライリーに尋ねられるままに、そのペンダントを指さす。
「こんな物に興味を示すなんて、あんただいぶ変わってるね。昔はこの手の物も数多く置いてたんだけど、やっぱ若い女の子からしてみりゃ『可愛くない』らしくって。売れる事も、手に取って貰える事も無いから、仕方なく数を減らして、今はこの1本だけなんだ」
彼女が徐にそのペンダントを手に取り、私の方へ差し出した。反射的に出した手の中心に、それがぽとりと落とされる。
細いチェーンの先に付いた、銀素材の楕円型のペンダントトップ。その中心には十字架が彫刻されていて、更には開閉式になっているのか側面に小さな凹凸があった。凹凸に指先を掛け、ゆっくりと開いてみる。
「――綺麗……」
開いた先に彫刻された聖母マリア。その美しさに、思わず声を漏らす。
アクセサリーという名の彫刻品を見ている様だ。永遠に見ていられる程の美しさに、ぼんやりと手の内のロケットを眺める。
「余程それが気に入ったんだね」
そんな私を見たライリーが、声を上げて笑った。
もしや、その美しさに見惚れるや否や、だらしない表情でもしてしまっていたのだろうか。慌てて表情を引き締め、「とても綺麗だったから」と言って彼女に合わせる様に自身も笑った。
「そんなに気に行ったんだったら、あいつに買ってもらえばいいじゃないか」
「あいつ…って…?」
ライリーが意味有り気な笑みを浮かべ、先程同様私の背後へと視線を向ける。それが何を意味しているか頭では理解していた筈なのに、ついついそれに釣られてしまい、自身も振り返って背後に視線を送ってしまった。
ぱちりと、交わった視線。
退屈そうな顔が訝し気な表情に変わり、視線の交わった人物、セドリックが徐に此方に歩み寄ってくる。
「だ、だめよ!セドリックには、迷惑を掛けたくないの!」
声を潜め、ライリーに強く訴える。
だが、ライリーは私の言葉など気に留める様子も無く、「アクセサリーの1つや2つ、男なら買ってやるのが普通だよ」と軽い口調で言ってセドリックに手招きをした。
近くに寄ってきた彼が、訝し気というよりも、最早面倒臭そうな顔をして私達に説明を求める。
「エルちゃんがこのペンダント、気に入ったんだってさ。あんた男だろ、買ってやんな」
「ちょっと…!」
少しも躊躇う事無くそう言って退けるライリーに、一気に鼓動が跳ね上がる。
ロケットペンダントは、まだ手の内に握ったままだ。早く弁解しなくては、と口を開こうとする物の、なんと言葉にしたらいいか分からず取り急ぎ否定を示す様に首を左右に振った。
だが私の思いはセドリックに届かず、彼の手が徐に私の手に重なる。
「…別に、欲しいならその位買ってやるけど」
思わず緩めてしまった手の内からロケットを摘み上げ、彼がそれをまじまじとそれを見つめる。そして金額を確認する様にチェーンの先に付いた値札へと指先を伸ばした。
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