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XIX 眠れない夜-III
しおりを挟むもっと、早くこの事実に気が付いていれば、私は母を救う事が出来たのだろうか。
母の気持ちに寄り添う事が出来たのだろうか。
ズキズキと胸は痛み、瞳に涙が浮かぶ。
私はそんな母の事も知らず、身勝手な理由で屋敷を出てしまった。母はそんな私を、我儘だと、悪い子だと思っただろうか。自分も外に出たいと、羨んだだろうか。
それとも、自分だけ幸せになろうなんてと、妬んだだろうか。
浮かんだ涙は零れ、頬を伝い枕にシミを作っていく。
それに私は、母だけでなく優しいメアリーの事も1人にしてしまった。
メアリーはいつの日か、私に「逃げてしまいましょう」と提案してくれた。あの時の彼女の言葉に、嘘偽りは無かった筈だ。
彼女は私を深く思ってくれていた。常に私を気遣い、婚約の時ですら、私の幸せを考えてくれていた。
――だが。
突如、金槌で打たれた様な、痛みを伴う動悸に襲われる。そしてそれと共に思い出したのは、キースとの正式な婚約が決まった日の事。
熱を出した私はメアリーから絵を貰い、幼少期に画家に描いて貰った絵を見る為に黙って父の仕事部屋へと入った。
その時、仕事部屋に入ってきたのは紛れも無くあのメアリーだった。
彼女は迷うこと無くベッドへと向かい、そして彼女がベッドの中から見つけ出したのはサファイアのピアス。
それは実母と片耳ずつ持っていると言っていた大切な物の筈。
何故、それが父のベッドの中にあったのか。
あの時、私は様々な事を考えた。父とメアリーは、不貞行為にあるのではないかと。だが、そんな事実信じたくなかった。
きっとまぐれだろうと、きっと何らかの事情で仕事部屋に呼び出され、その際落としてしまったのだろうと、無理矢理結論付けた。
だが、もし本当にメアリーが父と不貞行為にあったとしたら?
メアリーは昔、慕っている相手が居ると私に言っていた。その相手は、一体誰だったのだろうか。
屋敷の庭師がメアリーに想いを寄せていると噂で聞いた時から、私は庭師の彼とメアリーが結ばれて欲しいと密かに思っていた。
メアリーから慕っている相手が居ると聞いた時、心の何処かでそれは庭師の事なのでは無いかとも思った。
だがもし、その慕っている相手というのが私の父だったとしたら。
私に共に逃げようと提案した事が、父への想いを断ち切る為の物なのだとしたら。
父は階級制度に厳しく、労働者階級の使用人を動く道具としてしか見て居なかった。それに父には妻子がおり、エインズワース家の当主である。
そんな父に恋心を抱いた所で、報われる筈が無いのだ。
メアリーも、あの本の少女達の様に父を想っていたのだとしたら。
自身の想いを断ち切る事と、私を苦しみから救い出す事、2つの目的の為逃げ出す提案をしてもおかしくはない。
僅かに違和感は残る物の、今はその考えが1番辻褄が合う様に思えた。
何でも言い合える仲であったメアリー。
だが彼女にとって、私は何でも言える相手では無かったのかもしれない。
心臓は早鐘を打ち、頭の中は複雑な思考で絡まっていく。
だが1つ分かった事があるとしたら、エインズワース家は私の知らない事で埋め尽くされているのだという事だった。
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