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LIII 私の娘に... -III
しおりを挟む愛する娘には、幸せになって欲しい。
出来る事ならいつまでも私達の傍に居て欲しい物だが、この世の中は少々残酷であり、大切な我が子を親の手だけで守れない事もある。
ならばせめて、2人がいつまでも共に居られるように。仮に不幸な道を進む事になったとしても、2人だけは離れる事は無い様にと、そんな願いをこの指輪に込めた。
「レイ、右手を出して」
「右手?」
彼女が怪訝な反応をしながらも、右手を此方に差し出す。
指輪を嵌める位置は、“集中力・行動力をつける”右手の人差し指。これは、アクセサリーに詳しいライリーから教わったものだ。
箱からそっと指輪を取り出し、レイの指に慎重に嵌め込んだ。
「指輪だ!」
瞳を輝かせ、様々な角度から指輪を眺めるレイはとても無邪気であり、やはりまだ子供なのだと笑みを漏らす。
「世界で“2つ”しかない、特別な指輪よ」
「2つ……、あっ……!もしかして……!」
もう1つの指輪は、ルイの元にあるのだと覚ったのだろう。彼女がガタリと音を立て椅子から立ち上がり、声を上げた。
それを肯定する様に、彼女に微笑みかける。
「その2つの指輪は、磁石みたいに、互いを強く引き寄せるお祈りが込められているの」
「磁石……」
私の言葉を復唱する様に呟いた彼女が、何やら考えこむ様な顔をし再び椅子に腰を下ろした。
「貴女も気付いているわね。もう片方は、ルイが持っているわ。貴方達2人の事は、ママとパパで何があっても守っていきたいと思ってる。でも、時にはそうもいかない事もあるでしょう。これから先、家族4人でずっと一緒に居られるという保証は何処にも無い」
「――うん……」
手を伸ばし、俯いたレイの髪をそっと撫でる。
「貴女達2人きりになってしまったその時は、貴女がルイを支えてあげてね」
「――私が?」
「そうよ。ルイは賢い子だけれど、咄嗟の時に頭より先に身体が動いてしまう子。でも貴女は、どんな時でも慎重で、しっかりと物事を考えられる。だから、ルイが危険な事をしようとしたら貴女が止めるのよ」
「――……」
するりと、柔らかなレイの髪を指先で梳く。
彼女は勉強に関しては不真面目であるが、この様な話を軽んじる子ではない。きっと、彼女も彼女なりに何かを真剣に考えているのだろう。
――と、思ったのも束の間。彼女が、突然吹き出す様に笑った。
「ルイ、私の言う事聞いてくれるかなぁ。ママが思っている以上に、ルイって私の話聞いてないんだよ」
「――それは、否定……出来ないかもしれないわね」
そういえば、ルイは少々自由な子だ。幼少期に、泣いているレイを放って1人絵本を眺めていたことがあった。そんな様々なルイの自由な行動を思い出し、苦笑を漏らす。
ルイは自分で決めた事は貫き通す所があり、レイの言う通り彼女の言葉を聞かない可能性も大いにあった。
「――でも、大丈夫。ちゃんと止めるよ」
しかし、レイはふふ、と笑いしっかりと頷いて見せた。
「聞かなかったら殴ってでも止めてやる」
「それは、程々にね」
再びレイの頭を撫で、彼女と顔を見合わせて笑った。
「仮に家族がバラバラになっても、いつか必ず巡り合える。だから、レイはルイと共に居る事だけ考えていればいいわ」
自分の言葉が、親として普通じゃない事は分かっている。しかし、2人には2人の思う幸せを歩んで欲しかった。
私達親が決めつけた幸せなどでは無い、彼女達の本当の幸せを。
「少し早いけど……、レイ、11歳のお誕生日おめでとう」
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