DachuRa 1st story -最低で残酷な、ハッピーエンドを今-

白城 由紀菜

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LIV 失ったもの-I

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 ――その日は、夏だというのにやけに気温が低く、とても肌寒かった。

 窓から見える空は、今にも雨が降りそうな黒。妙に不安を煽る色だ。
 急いで買い出しを済ませ、なるべく早く帰って来よう。そう思いながら、財布の入ったバスケットと家の鍵を手に取った。 

「ママは買い出しに行ってくるから、2人共ちゃんとお勉強しているのよ」

 自宅の玄関先。
 むくれているレイと、何処かそわそわと落ち着かない様子を見せるルイに言い付け、ドアノブに手を掛ける。
 レイは先程迄、「自分も一緒に街へ買い出しに行く」としつこく駄々を捏ねていた。しかしレイは昨日も一昨日もまともに勉強をしておらず、今日は罰という事で1日お勉強だ。
 ルイはというと、毎日しっかりと与えられた課題は時間内に終わらせ、残りの時間を趣味の読書に費やしている。きっと今も、彼女は早く勉強を終わらせて本の続きが読みたいのだろう。
 
「誰か来ても絶対に扉は開けない事。2人だけで外には出ない事。分かったわね」

「……」

 コクリと黙って頷くルイと、未だ不服そうな瞳で此方をじとりと見つめるレイ。レイは随分と往生際の悪い子供だ。溜息を漏らし、「分かったわね?」ともう一度強めの口調で彼女に問い掛ける。

「…………はぁい」

 未だ彼女の瞳が不満を訴えているが、諦めたのかレイがやや不機嫌そうな声音で答えた。
 そんな彼女の頭を軽く撫で、玄関扉を開く。

「じゃあ、行ってくるわね」

 2人に手を振り、扉を閉める。
 こうして2人に留守番をさせるのは久しぶりだ。扉をしっかりと施錠し、街の方へ足を向けた。

 不真面目なレイに、罰として今日1日勉強だと言い付けたのはセドリックだ。そんなセドリックの言葉に、レイは不満を訴えていた。しかしセドリックが教育熱心な事には変わらず、「それ以上言うなら1週間勉強漬けにさせる」と言ってレイを黙らせていた。
 少々レイが可哀想だと思いながらも、全ては彼女の為だ。数日後にはもう14歳になると言うのに、読み書きが苦手な様では困ってしまう。
 仕事で家を空けているセドリックの代わりに、私が2人――主にレイの勉強を見るべきなのだろう。しかし、家事を疎かにする訳にもいかない。レイが真面目に勉強しないと分かり切った上で買い出しに出かけるのは気が引けるが、これも私の仕事である。
 ルイが不真面目なレイを、姉として叱ってはくれないか、なんて思ってもみるが、きっと彼女は早々に自分の勉強を終わらせ大好きな読書に時間を費やすのだろう。ルイは、レイに対してやや冷淡な一面があり、それは幼少期から変わる事は無い。
 これでちゃんと姉妹としてやっていけるのだろうか、なんて不安を抱く事もあるが、レイは我儘で喜怒哀楽も激しい為、全ての事に構っていたらルイも疲れてしまうのだろう。レイもそんなルイに不満を抱いている様子も無く、これはこれでしっかりとバランスがとれているのかもしれない。
 ふふ、と笑みを零しつつ、頭の中に買う食材を並べ店へと急いだ。


「お、エルさんいらっしゃい。今日は1人?」

 色取り取りの果物が並ぶ小さな出店。その店に近づき、最も彩りの良い林檎を1つ手に取ると、店の主人が明るく話し掛けてきた。その声に顔を上げ、微笑みを浮かべつつ頷く。

「ええ、娘は家でお勉強」

「相変わらず教育熱心だねぇ、うちの息子にも勉強を教えてやって欲しいよ」

 店主が豪快に、声を上げて笑う。そして一頻り笑った後、主人はふと何かを思い出した様にあ、と声を漏らし真剣な表情を浮かべた。

「そういえばエルさん、あの噂聞いた?」

 主人が私に顔を近づけ、やや潜めた声で囁く様に告げる。

「――噂?」

 此処の主人は噂好きだ。何処からそんな情報を仕入れてくるのか、近所の事情から遠くの街の話まであらゆる話をいち早く取り入れ、こうして買い物にやってきた客を見つけてはそれを話して聞かせている。その内容も幅広いもので、他の人が知らない様な話も知っている為情報収集には丁度良いが、貴族の噂話も多い故聞いていて肝が冷える時があった。
 しかしこの約15年で、彼の口からエインズワース家の話題が出た事は無い。そして私の素性にも、未だ気付いて居ないようだった。きっと今回の“噂話”というのも、私には関りの無い話だろう。
 一番形が良く、色の良いレモンを2つ手に取り、娯楽の1つとして聞こうと彼の話に耳を傾ける。

「エルさん、スタインフェルド家の事は知っているね?」
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