DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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X 不気味な男-I

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 多くの人で賑わう、街の中心部。
 エルを連れて、人混みの中へと歩を進めていく。
 
 今後の事を考えて、普段買い出しに使う市場の店だけでなく隣町に近い場所まで連れて行き、様々な場所を教えた。街の診療所に、情報収集に適した人物、そして安易に近づくべきでは無い場所等々。ついでに英国最大とされている高級百貨店の近くまで連れていったが、行った事が無かったのかその大きさに瞳を輝かせていた。

 家を出て彼此1時間程が経過しているが、足の疲れを感じさせない程に彼女を見ているのは面白い。
 何を見せても瞳を輝かせ、俺の言葉はちゃんと彼女に届いているのかいないのか、きょろきょろと辺りを見渡しては嬉しそうにしていた。
 
 家の方向へを足を向けながら、空を見上げる。相変わらず天気は良く、家を出た時より少しばかり雲が晴れてきている様にも感じられる。
 今日の予定は街の散策以外に特にないが、1時間も歩き回った後だ。瞳を輝かせる彼女をもう暫く見ていたいと思う気持ちはあるが、今日はこのまま真っ直ぐ家に帰るべきだろう。
 家に幾つか揃えてある紅茶でも淹れてやれば、俺の一歩後ろを歩く彼女も喜ぶかもしれない。確か2日程前に依頼者から貰った菓子がまだ残っていた筈だ。貴族だった彼女の口に合うかは分からないが、それも紅茶と一緒に出してやれば、また嬉しそうに笑ってくれるだろうか。

「――お出かけはもうお終い?」

 そんな事を考えていると、背後から彼女の声が飛んできた。

「あぁ、もう粗方説明は済んだからな」

 振り返る事無く、彼女の言葉に返答する。

「残念ね……、まだ陽が落ちるには早すぎる時間なのに」

「まぁ、気持ちは分からなくも無いが」

 何処か寂し気な声を出す彼女に後ろ髪を引かれつつも、今日は街へ遊びに来たわけでは無い、と自身に言い聞かせる。
 折角外に出られた彼女をまた家に閉じ込めてしまうのは少々心が痛むが、彼女を危険に晒さない為だ。致し方が無い。
 しかし、やはり紅茶と菓子を出して機嫌を取る必要があるだろうか。マーシャがエルに数冊本を与えた様だが、それ等にも飽き始めてしまっている様で、口には出さないものの家の中だけで過ごす事に退屈を感じている様だった。
 いっそ、自身が彼女の話し相手になるのはどうだろうか。家に帰ったらいつもの様に昼寝に興じようと思っていたが、紅茶を淹れて他愛の無い話をするのも悪くない様に思える。
 だが、自身はマーシャの様に社交的でなければ同性でも無い。出逢って一週間そこらの男とティータイムを共にしても、何一つ楽しくないだろう。
 では、少し遠回りでもして帰ろうか。彼女を見ている限り、まだ体力は残っているようだ。しかし、それも最善策とは言えない。いつ何処で誰が見ているか分からない為、少なからず危険を伴う。エインズワース家の人間と街で会偶する確率は極めて低いが、可能性はゼロとは言えないだろう。
 うぅんと唸り、背後の彼女はこの後どうしたいかを訪ねようと歩を進めながら振り返った。

「――は……?」

 自身の後ろを歩いていた筈の、彼女の姿が無い。その場で足を止め、呆然と立ち尽くす。

「またかよ……」

 何処か気になる店に、吸い寄せられてしまったのだろうか。気になるものがあるのは仕方が無い事ではあるが、こうも頻繁に居なくなられては困ってしまう。
 この際、街を歩くときは首輪でもつけて置いた方が良いのだろうか。
 付近を見渡しても彼女の姿は何処にも無く、仕方なく来た道を引き返した。
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