DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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XIII その時彼女は何を見る-II

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「――セディ、最近調子悪いね」

「あぁ、まぁちょっと色々な」

「エルちゃんにはまだ、何も伝えてないみたいだけど」

「……」

 相変わらず回りくどい言い方をするマーシャを恨めしく思い、きつく睨みつける。にやにやと笑うマーシャはまるで、悪戯を思いついた子供の様だ。
 相変わらず、彼女は鋭い。どうせ、自覚したエルへの想いなどにも全て気が付いているのだろう。
 もう彼女には何を言っても無駄だ。諦めを込めた溜息を吐き、カップをテーブルに置いた。

「どうせ、さっさと言って関係持てとか言いたいんだろ」

「分かってんじゃん。なら話は早いね」

 マーシャがテーブルの上に置かれたカップを雑に退け、肘を付いて身を乗り出した。顔を近づける彼女の額を強く手で押し返し、顔を背ける。

「言っとくけど、あいつには何も言わないからな」

「なんで!」

「下手に言って関係壊したくない」

「はぁ!? なにそれ!」

 額を押し返す手を払い退けられ、彼女の手がシャツの胸倉を掴んだ。そしてそのまま、強い力で引き寄せられる。
 その細い体の何処にそんな力が隠されていたのか。状況を理解する前に、額に強く受けた衝撃。脳が揺れる感覚がした直後、シャツを掴む手を離されソファとテーブルの隙間に崩れ落ちた。
 そこで漸く、マーシャに頭突きをされたのだという事に気付く。

「っ……お、お前、気に入らない事あると直ぐ手出す癖やめろよ!」

「あんたが屁理屈ばっか言うからでしょ!」

「屁理屈でも何でもないだろ!」

 酷く痛む額を押さえ、なんとか身体を起こしソファに座り直す。
 彼女の、何か少しでも思い通りにならないと直ぐに手が出る癖は健在だ。年々、その力も強くなっていっている気がする。
 過去に今以上に強い頭突きをされ、軽い脳震盪で意識を失った事もあった。そろそろ力加減を覚えて欲しいものだ。

 機嫌の悪さを露わにしたマーシャが、足を組んで向かいのソファに座る。
 きっと人の考えが読めるマーシャにとっては、今の俺の気持ちは理解出来ないのだろう。
 エルと、もう半年も1つ屋根の下で暮らしていると言うのに、未だに何も進展が無いだなんて聞いた人間の殆どが疑念を抱く話だとは自分でも思う。

「なんで分かんないかなぁ、こんな簡単な事が」

「人間は普通、人の考えてる事は分からないんだよ……」

「私だって別に、そんな全部分かる訳じゃないし! 誰にだって勘ってあるでしょ! エルちゃんから好意持たれてるな、とか感じないの?」

「……まぁ、嫌われては居ないだろうが」

「それだよ! それ! 少しでもそう思うなら言っちゃおうよ! 愛してるの一言位言えるでしょ!?」

「だからお前はなんですぐそういう……」

 彼女の勢いに言葉を失い、頭を抱える。
 もしマーシャと同じ様に、自身も人の考えが読めたなら、これ程に苦労する事は無かったのだろうか。それとももう少し、女性との交際経験を積んでおくべきだっただろうか。
 いや、もし過去に戻れたとしても、エル以外の女性と恋愛をする気にはとてもなれない。それに、今迄自身は両親の呪いに苛まれてまともな精神をしていなかった。どの道恋愛経験を積む、なんて事は自分には出来ない。

「……なんだ、プロポーズでもしてくればいいのか……」

「交際過程吹っ飛ばして妻になって欲しいなんて度胸あるね」

「ねぇよ。そんな度胸ねぇからこうやって頭抱えてんだろ」

「もういっそ首輪繋いでペットにでもしちゃえば?」

 彼女の言葉に思わず首輪を繋いだエルの姿を思い浮かべてしまい、それはそれでありだと思ってしまう自分が情けない。
 パサついた髪を手櫛で整えるマーシャは早くもこの話に飽きてしまった様だ。
 ガサツで喜怒哀楽の激しいマーシャも、淑やかで愛嬌のあるエルも、同じ女性だという事に納得がいかない。それ程に、マーシャもエルも正反対だ。
 いっそ2人を足して割ったら丁度いい人間が出来上がるのではないかとも思う。だが、直ぐにエルがマーシャの様にガサツな人間になってしまっては困ると自身の思考を否定する。しかしエルなら、喜怒哀楽が激しく多少ガサツな人間になっても愛らしいのではないか。そんな事ばかり考えてしまう自身に嫌気が差し、再び頭を抱えた。
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