DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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XXIII 二日酔いの朝-II

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 ネクタイを緩く締め、壁時計に目を向けた。
 普段なら、自身も彼女もまだベッドの中にいる時間だ。本音を言うとまだ眠って居たいが、今はあまり時間を無駄に消費している場合でも無い。
 それに、どうしても1つ早急に確認したい事があった。
 “目星がついた”というにはまだ不確かで曖昧だが、主犯格の男に何処か重なるとある人物。その人物は主犯格と関りがあるのか、将又主犯格本人なのか。それを今すぐにでも明らかにしたい。

 吐き気を伴う眩暈にふらつきながら、脱衣所の扉を開けた。
 光があまり入らない脱衣所は、昼間でも薄暗い。しかし、態々明かりを灯す程でも無いだろう。
 前髪を掻き上げ、水道の蛇口を捻った。

 ふと目に入った、水道の真上に設置された小さな鏡。
 その鏡に映った自身の顔は、嘗て俺に強烈なトラウマを植え付けた男によく似ていた。

 “セドリックは本当に、お父さんにそっくりね”

 そう母が言っていたのを、今でもよく覚えている。
 そしてその言葉に従う様に、歳を重ねる毎に父と同じ顔になっていくのも自覚していた。
 肩に付き、後ろで束ねられる程の長さの髪は、そんな父の生き写しの様な自身から逃れる為の、言わば自己暗示の様な物だった。
 しかし、父と違う所と言えば髪の長さと瞳の色位だ。きっとこれから先も、鏡を見る度に父を思い出すのだろう。

 両の掌に溜めた冷水で顔を洗い、シャツ同様石鹸の香りがする柔らかなタオルで濡れた顔を拭う。
 調子が悪い日は、嫌な事ばかり思い出す。過去の事を思い出して気が滅入る位なら、今はその時間を今回の事件に充てたい。
 深く溜息を吐き、湿ったタオルを足元に置かれたバスケットに投げ入れた。

 リビングに戻り、未だ一度も読めていない昨日の新聞を手に取る。1つ1つの生地を全て目で追い、例の事件についての記事を探す。
 だがお目当ての記事は、新聞の隅にたったの1行「The criminal has not been caught yet 《犯人は未だ捕まらず》」と書かれているだけ。その他、特記すべき新報も無い。

 消えない苛立ちに髪を掻き乱し、新聞をテーブルに叩き付けた。
 どれだけ騒ぎになろうと、結局は皆他人事だ。自分達は被害に遭う筈が無いとでも思っているのだろうか。噂に噂を重ね事件を引っ掻き回し、飽きたらとっとと別の噂に乗り換える。街で起こった事件など、市民の暇潰しにしかならないのだ。

「――セドリック、大丈夫?」

 背後からエルのか細い声が聞こえ、ふと我に返る。
 乱れた髪を手櫛で整えながら、彼女が眠るベッドに腰掛けた。
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