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XXX 彼女の隠し事-I
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エルの妊娠を知って、どれ程が経過しただろう。1日2日と日が過ぎ去り、今日で3日目だ。
未だ、彼女の口からは何も聞かされていない。
まさか、エル本人が妊娠している事を知らない、なんて事は流石に無いだろう。マーシャが聞き間違えた事も考えづらい。
話をする機会など、この3日間で幾らだってあった筈だ。徐々に、挙動不審なマーシャとキッチンで話した事は夢だったのでは無いかとすら思えてくる。
ベッドから身体を起こし、解れたシャツを針と糸で縫い合わせている彼女に視線を投げた。
あのシャツは、今朝アームホールに解れを見つけ処分しようとした物だ。しかし彼女が、縫い合わせればまだ着用できる、処分するには勿体ないと言った為、彼女に解れの修正を任せた。
だが、彼女を見ている限り先程から何度も縫い直している様に感じる。直らないなら直らないで、早々に諦めて貰っても構わないのだが、等と思いながら、ベッドから腰を上げた。
夕食を終えた後の、空いたこの時間。話をするにはいいタイミングだ。
彼女と向かい合う様に、テーブルに着く。
「――なぁ、エル」
テーブルに頬杖をつき、彼女の手元に目を遣った。
彼女は屋敷で裁縫でも習っていたのか、布を縫い合わせる手付きには迷いが無い。器用という言葉だけで言い表してしまうには欲しく感じる程、丁寧で慣れを感じるものだ。
しかし、今日の彼女はいつもと違っていた。
何度も針を刺してしまったのか指先は血で汚れていて、縫い合わせている箇所も酷く歪んでいる。彼女らしくない、とも言えるだろう。
そんなエルを見つめていると、「なぁに」と彼女が穏やかに答えた。
彼女の視線は、手元に落ちたまま。
シャツの事を指摘したい気持ちもあるが、今はそれよりも“あの話”の方が先だ。しかし、何から問えば良いのか分からず口籠る。
そんな自身の異変を感じ取ったのか、彼女が顔を上げた。
「どうしたの?」
俺を見つめ、愛らしく首を傾げる。
本当は、催促なんかせずに彼女の口から聞きたかった。だが、彼女に言うつもりが無いのなら此方から聞くしかない。
ゆっくりと息を吸いこみ、口を開いた。
「――お前、俺に何か言わなくちゃいけない事があるんじゃないのか」
彼女の肩が、小さく揺れる。
「――マーシャから何か聞いたの?」
「いや……」
その問いを聞いた瞬間、マーシャから口止めをされている事を思い出した。エルとマーシャの仲に、徒に亀裂を入れてしまうのは躊躇われる。
どう返すか暫し悩んだ結果、曖昧に「何となく」と言葉を濁した
部屋に響くのは、時計の秒針のみ。
その音が、妙に自身を急かしている様に聞こえて気分が悪い。
「あ、あの……」
彼女の小さな声が、静寂を裂く。
その強張った顔は、まるで“望まない妊娠”だとでも言う様だ。
「――エル」
様々な感情が入り混じり、言葉に出来ずただ彼女の名を呼ぶ。
未だ、彼女の口からは何も聞かされていない。
まさか、エル本人が妊娠している事を知らない、なんて事は流石に無いだろう。マーシャが聞き間違えた事も考えづらい。
話をする機会など、この3日間で幾らだってあった筈だ。徐々に、挙動不審なマーシャとキッチンで話した事は夢だったのでは無いかとすら思えてくる。
ベッドから身体を起こし、解れたシャツを針と糸で縫い合わせている彼女に視線を投げた。
あのシャツは、今朝アームホールに解れを見つけ処分しようとした物だ。しかし彼女が、縫い合わせればまだ着用できる、処分するには勿体ないと言った為、彼女に解れの修正を任せた。
だが、彼女を見ている限り先程から何度も縫い直している様に感じる。直らないなら直らないで、早々に諦めて貰っても構わないのだが、等と思いながら、ベッドから腰を上げた。
夕食を終えた後の、空いたこの時間。話をするにはいいタイミングだ。
彼女と向かい合う様に、テーブルに着く。
「――なぁ、エル」
テーブルに頬杖をつき、彼女の手元に目を遣った。
彼女は屋敷で裁縫でも習っていたのか、布を縫い合わせる手付きには迷いが無い。器用という言葉だけで言い表してしまうには欲しく感じる程、丁寧で慣れを感じるものだ。
しかし、今日の彼女はいつもと違っていた。
何度も針を刺してしまったのか指先は血で汚れていて、縫い合わせている箇所も酷く歪んでいる。彼女らしくない、とも言えるだろう。
そんなエルを見つめていると、「なぁに」と彼女が穏やかに答えた。
彼女の視線は、手元に落ちたまま。
シャツの事を指摘したい気持ちもあるが、今はそれよりも“あの話”の方が先だ。しかし、何から問えば良いのか分からず口籠る。
そんな自身の異変を感じ取ったのか、彼女が顔を上げた。
「どうしたの?」
俺を見つめ、愛らしく首を傾げる。
本当は、催促なんかせずに彼女の口から聞きたかった。だが、彼女に言うつもりが無いのなら此方から聞くしかない。
ゆっくりと息を吸いこみ、口を開いた。
「――お前、俺に何か言わなくちゃいけない事があるんじゃないのか」
彼女の肩が、小さく揺れる。
「――マーシャから何か聞いたの?」
「いや……」
その問いを聞いた瞬間、マーシャから口止めをされている事を思い出した。エルとマーシャの仲に、徒に亀裂を入れてしまうのは躊躇われる。
どう返すか暫し悩んだ結果、曖昧に「何となく」と言葉を濁した
部屋に響くのは、時計の秒針のみ。
その音が、妙に自身を急かしている様に聞こえて気分が悪い。
「あ、あの……」
彼女の小さな声が、静寂を裂く。
その強張った顔は、まるで“望まない妊娠”だとでも言う様だ。
「――エル」
様々な感情が入り混じり、言葉に出来ずただ彼女の名を呼ぶ。
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