DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

文字の大きさ
149 / 162

XLIII 最後の予言-IV

しおりを挟む
 今回の一連の出来事は、誰もが加害者であり被害者だ。そして全員、同じ罪を背負う。
 そんな中憎むべき相手が居るとしたら、他でも無い自分自身だろう。
 いつかこの仕事が家族の幸せを壊してしまうのではないかと、いつかこの仕事を選んだ事を後悔するのではないかと、ずっと思い続けていた。こんな事になってしまったのは、全て自身の責任だ。
 スタインフェルドの言う通り、自身はそれ相応の責任を取らなくてはならないのかもしれない。

 エルに全てを話したら、彼女はどんな顔をするだろうか。仕方が無いと受け入れるか、失望し俺から離れていくか。
 もし彼女が後者を選んだ場合、俺は間違いなく正気を保っていられなくなるだろう。あの日の父の様に、エルを手に掛けてしまうかもしれない。
 親なら娘を第一に考えるべきなのだろうが、ルイとレイが互いに信頼し合い、2人で1つの関係であった様に、エルは俺の全てであり生きる意味そのものだ。親失格だと言われようが、どうしてもこの思いだけは変える事が出来ない。

 漸く視界の先に見えた我が家。その扉は僅かに開いており、風が吹く度にゆらゆらと開閉を繰り返している。
 やはり、メイベルが言う様に家族の身に何かがあったのだろう。
 足を動かす速度を緩め、扉の前で立ち止まった。

 ドアノブに掛けた手は、感覚が麻痺する程冷え切っている。
 こうしている間にも体温は奪われ、最早寒いという感覚すら無くなっていた。
 息を深く吐き、ゆっくりと扉を開ける。

「……エル」

 最愛の妻の名を呼びながら、家の中へ足を踏み入れる。
 玄関マットに足を置いた瞬間、じわりと水が滲み出る感覚が伝わり足元に視線を落とした。
 扉が開いていた所為だろうか。玄関マットはこれ以上無い程に雨水を含んでいて、踏み締める度にふつふつと濁った水が木の床に広がる。
 そしてよく見ると、その水はマットだけに留まっておらず、テーブルの下に敷いたボルドーのカーペットにまで染みてしまっていた。

 早く水を拭き取らなければ、いずれ木の床に水が染み込み、中で腐って黒く変色してしまうだろう。
 しかし今は、その先の事を考える気にはなれなかった。

 床に薄っすらと付いた足跡を、辿る様に中へ進んでいく。
 大きさからして、エルの物で間違いないだろう。玄関から真っ直ぐ階段の方へ足跡が続いている所を見ると、エルが自宅へ戻って来た頃にはもう、既に2人は居なくなってしまっていた様だ。
 木の階段を上り、娘2人の部屋の扉を開く。

「――エル」

 視界に入ったのは、娘のベッドに突っ伏した彼女の背中。その背に投げ掛ける様に再び名を呼ぶと、項垂れたその小さな頭がゆっくりと此方に向けられた。

「――セドリック……2人が、居なくなっちゃったの……」

 次第にその声は小さくなり、彼女の瞳から涙が零れ落ちる。

「――ごめん、なさい……私が、ちゃんと2人を見ていなかったから……」

 彼女の顔に浮かぶ絶望的な表情と、震えた自責の言葉。胸が抉られる様に痛み、濡れた服なのも構わず彼女をきつく抱きしめた。

「――ごめんなさい、ごめんなさい」

 まるで子供の様に泣きじゃくる彼女が、俺に縋って何度もその言葉を繰り返す。
 ふと、ベッドの上に投げられた1枚の紙が目に入った。あやす様に彼女の背を撫でながら、その紙を手に取る。

--

 Dad, mom, goodbye. Don't forget us. 《パパ、ママ、さよなら。私達を忘れないでね。》

 I love you, forever. 《いつまでも、愛しています。》

--

 文字を書く事に慣れていない様なその文字は、紛れも無くルイの字だ。
 普段から丁寧に文字を書くルイにしては、随分と字が乱れている。去り際、咄嗟に書いたのだろうか。

 娘の事も、仕事の事も、スタインフェルドの事も、彼女に打ち明ける未来からは逃れられない。
 意を決し、彼女の肩に触れその身体を自身から離した。

「エル、話さないといけない事がある」


 ――破滅は、いつも突然訪れる。
 深い絶望に叩き付けられた自分達は、一体この先何処へ向かうのだろうか。
 もしこの世に神がいるのなら、どうかこの物語の終幕おわりを教えてはくれないだろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

処理中です...