DachuRa 2nd story -呪われた身体は、許されぬ永遠の夢を見る-

白城 由紀菜

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XLV 分岐点-I

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 見慣れた自宅の前。ジャケットの外ポケットからキーリングを取り出し、玄関扉を解錠する。
 自身は今日、確かにあの森奥の教会を訪れた。しかし教会が纏う異様な空気感に、教会で過ごした時間がまるで夢の中の出来事の様に感じられた。
 時間が経てば経つ程徐々にその記憶は曖昧になってゆき、教会で出会ったマリアそっくりのシスターも、自身が生み出した幻覚なのでは無いかと思えてくる。
 今日の出来事を幻にしてしまわぬ為に、シスターの名を何度も脳内で繰り返した。


「――おかえりなさい、何処へ行っていたの?」

 玄関扉を開いた先、椅子に座りぼんやりとしていたエルが勢い良く立ち上がった。いそいそと此方に駆けて来た彼女が、俺の方へ両手を伸ばす。そんな彼女を自身の腕の中に招き入れ、優しく髪を撫でながら耳元で「ただいま」と一言囁いた。
 今日は比較的安定している様だが、娘が居なくなってからのエルは少々不安定だ。家の中でも常に自身の後を付いて歩き、少しでも俺の姿が見えなくなるだけで数時間泣き止まなくなる事がある。

 俺の仕事が原因で娘が居なくなったというのに、彼女は一度だって俺の事も仕事の事も責める事は無かった。どんな事があっても俺を愛していると、離れたくないと、そう涙ながらに訴えた。
 しかしそれが彼女の本心であったとしても、娘が居なくなった事に傷心していないという訳では無いのだろう。
 彼女の精神が不安定なのは、紛れも無く自身の所為だ。自身を苛む罪悪感に、エルを抱く腕に力を籠めた。

「――ん?」

 ふと、テーブルの上に置かれた一通の手紙が目に入った。
 自分宛ての手紙は依頼者からの物が多く、基本職場に届く様にしている。その事もあってかこの家に手紙が届く事は殆ど無いのだが、彼女宛ての物だろうか。脱いだジャケットを彼女に手渡し、その手紙を手に取る。
 見るからに上質な紙を使用したその手紙には、切手も貼られていなければ消印も無い。ただ、俺とエル2人の名前が書かれているだけだった。差出人を見ようと、その手紙を裏返す。

「アンブリッジ……?」

 右下に小さく書かれた、差出人である“セシリア・アンブリッジ”の名前。教会で出会ったシスターと重なるその姓に、思わず言葉を漏らす。
 それに、気になる事はそれだけでは無い。自身の記憶が間違っていなければ、差出人であるセシリア・アンブリッジはシスターの母親だった筈だ。

「その人、知っているの?」

「――いや……」

 エルの問いに、答え辛く曖昧に言い淀む。
 赤い封蝋には、見覚えのある十字架の紋章が押されていた。その紋章は、ライリーの友人が勤めている教会の物だ。エルのロケットペンダントの裏や、娘2人に贈った指輪リングの内側にも同じ紋章が刻印されている。
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