バレンタインパーティで出逢ったダサい年下君は、脱いだらまさかのアノヒトでした。

カミヤルイ

文字の大きさ
1 / 5

 行きつけのゲイバーでバレンタインパーティーが催された。

 いつもシックな店内が、ピンク色の照明と大小のハート型のバルーンで彩られ、華やかな雰囲気になっている。

 ホールの中央にはチョコレートファウンテン。

 その前に立つウエイターが持つトレイには、チョコレートリキュールを使ったカクテル各種が。

 告白したい者はチョコレートファウンテンの周囲に並べられたイチゴにチョコレートをかけ、相手のチョコレートカクテルに入れていいかを問う。

 問われた相手はOKならグラスを差し出してイチゴを受け取り、自分もチョコかけイチゴを相手のグラスに入れる。
 NOならグラスを引く決まりだ。

 今日はバレンタイン当日。

 すでに恋人同士でも、常連の客に片思いをしている者でも、初来店で気になる相手を見つけた者でも、このバーの中でなら、誰でも誰かに大胆に愛の告白ができる、年に一度の【大告白パーティー】の日だ。


「また一組、カップルが成立しました! 皆さん拍手を!」
「おめでとう!」
「おめでとう!」

 マスターのノリのいい声が響き、店内に拍手が起こる。

 カップルは手にしていたチョコかけイチゴ入りカクテルグラスに口を付けた。

 見つめ合いながらカクテルを飲み干し、イチゴを食べる。

 今日はもう、これで五組目のカップル成立だ。
 店内の客たちのボルテージはますます上がっていく。

 その中で一人、カウンターテーブルの端でうつむいた男がいた。

 男は一度手を握り込むと顔を上げ、カップルになったばかりの二人に祝いを伝えるために席を立った。

「おめでとう、よかったね」
「梶山君! ありがとう! 俺じゃ若い子に相手にしてもらえないと悩んでいたけど、君が『大丈夫』と背中を押してくれたから勇気を出すことができた」
「お役に立てて嬉しいよ。お幸せに。たまにはまたここで一緒に飲もう、と誘いたいところだけど、恋人君に心配をかけないように、ここに来るときは二人でおいでよ?」

 梶山が「恋人」と言ったことが嬉しかったのか、新しい恋人たちは笑顔で見つめ合った。

「いい人ですね、こちらの方」
「そうなんだ。彼のようないい友人がいて幸せだよ。……君との縁を繋いでくれたんだから」

 二人はそのまま自分たちの世界に入り始めた。
 梶山はもう一度「お幸せに」と静かに声をかけ、そっと二人から離れる。

(いい人、いい友人、か。あーあ、どうして背中を押しちゃったんだろうなぁ)

 ──いや、背中を押したつもりはなかった。

 実のところ、イケオジ系とはいえまさか四十半ばの飲み友が、二十代前半のかわいい系青年にOKされるとは思っていなかったのだ。

 だから梶山は言った。
『君みたいな素敵なイケオジ、誰でもOKするに決まってるよ……ずっとそばで見ている人もいるくらいなんだから』

 そう遠回しに自分の存在をアピールし、飲み友が振られて席に戻ったらチョコかけイチゴを差し出すつもりだった。
『俺がいるよ』
 と。

「ハァ……」

 席に一人で戻った梶山は、人知れず深いため息を吐いた。

 飲み友とは半年ほど前にこのバーで出会い、意気投合した。

(何度か誘ってくれるサインがあったのに、俺は……)

 ワンナイトで終わりたくなく、飲み友ポジションからゆっくりと距離を縮めて今夜告白するつもりだった。

 それなのに……!

 彼は今日初来店したばかりのあの青年に一目惚れをしたのだ。

(いつもこうだ。タイミングを測っている間にいい人で終わる) 

 そんな梶山には、三十九年間特定の恋人がいたことはない。

(俺も来月には四十だ……。これといって特徴のない地味な容姿の年増のネコ、もう誰も抱いてくれないかもしれない。俺はこのまま干からびていくのかな)

 そう打ちひしがれ、二度目のため息を吐いたときだった。

「──隣、いいですか?」
「……えっ?」

 ガタイはよさそうなのに、背を丸めた臆病そうな田舎くさい若者に背後から声をかけられた。

 ボサボサの黒髪に黒縁メガネをかけている。

 見た目も、だいいち年下も好みではないが、声はなかなか深みがあっていい。

 今夜は話し相手が欲しいし、これも縁だろう。

 梶山は隣の席を手のひらで示した。

「どうぞ、空いてますよ」
「ありがとうございます。失礼します」

 若者が着座する。

(へえ……礼儀正しいし、見た目を裏切る洗練された身のこなしだな)

 感心しつつ、梶山と彼とはひと回りは年齢が違うだろうから、大人っぽく紳士的に微笑んでみせる。

「この店は初めて?」
「ゲイバー自体、初めてです。緊張しましたが、一人でいらっしゃるあなたを見かけて思いきって声をかけました」 
「そう。でも初めてがこんなオジサンじゃ申し訳ないな。フリーの若い子も多くいるからホールに出てみれば……」

 言いながら梶山が店内を見回すと、若者はスッと肩を寄せてきた。

「いえ、他の人は眼中にないです。俺はあなたと話したいから声をかけたんだから」
「……へっ」

 低くも甘い声だ。
 そんなイケボに耳元で甘い言葉を囁かれ、梶山の背筋は羽根で撫で上げられたかのようにゾクッと震えた。

 若者は梶山から肩を離すと、さっきまで飲み友が飲んでいたカクテルグラスを指でカツンと弾いた。

「俺、さっき一部始終を見てました。……好きだったんでしょう?」

 どこか鼻白んで言うと、梶山の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。

「あの人はバカだね。……俺ならあなたを選ぶのにな」 
「えっ」
「ま、あの人が決断を間違えたからこそこうして話せた俺は、ラッキーですけどね」

 梶山を見つめたまま飲み友のグラスを奥に追いやると、新しくオーダーしたカクテルを飲んで唇を舐めた。

(うわ、なんか色気があるな)

 ダサいはずなのに、野生動物のような仕草をする若者にドキッとさせられてしまう。

 梶山はつい、若者に魅入られてしまった。

 程よい厚さの唇。唇の斜め下のほくろ。

 がっしりした顎や男らしい首筋。
 指は長く、手の甲は筋張っていて大きい。

 前髪と眼鏡で顔の造形がわかりにくいのに、とてもセクシーに見えた。

「……年上をからかわないでくれ」

 頬が赤くなっていませんようにと願いながら、つとめて落ち着いた声で伝える。

「ふふ、可愛いですね。顔が赤いのは酒のせいじゃないですよね」
「……っ」
 
 気づかれてしまった。
 梶山は恥ずかしさからカウンターデスクに置いた手を握り込む。

 すると、その手に手を重ねられた。

「ねぇ。良かったらこのあと、どうですか」

 指の間をなぞる嫌らしい手つきで指を絡めとられる。 

 そんな些細なことで梶山は下腹部をジクジクと疼かせてしまった。

(……どうしよう。年下は初めてだけど、どうせワンナイトだろう。冒険してみようか)

 今までの「いい人」一辺倒のつまらない自分から変わりたい。
 なにより、身体の疼きが治まらない。

 身体が若者を欲している。

 こんな動物的な気持ちになるのは初めてだった。

「いいよ。行こう」

 梶山はゴクンと唾液を飲み下してから頷いた。


感想 7

あなたにおすすめの小説

天使の分け前

ゆなな
BL
勉強ができることしか取り柄がない陽也は、天使みたいに清らかな学園の人気者である綾人が好きだった。 地味で勉強ばかりしている陽也とも友人として優しく付き合ってくれる綾人に劣情を抱いてしまうことに陽也は罪悪感を感じていたが─── 普段は天使みたいなのに、ベッドでは野獣に変身する攻めが書いてみたかっただけのお話。お気軽にお読み下さい。

年下くんに堕とされて。

bara
BL
イケメン後輩に堕とされるお話。 3話で本編完結です

失恋したと思ってたのになぜか失恋相手にプロポーズされた

胡桃めめこ
BL
俺が片思いしていた幼なじみ、セオドアが結婚するらしい。 失恋には新しい恋で解決!有休をとってハッテン場に行ったエレンは、隣に座ったランスロットに酒を飲みながら事情を全て話していた。すると、エレンの片思い相手であり、失恋相手でもあるセオドアがやってきて……? 「俺たち付き合ってたないだろ」 「……本気で言ってるのか?」 不器用すぎてアプローチしても気づかれなかった攻め×叶わない恋を諦めようと他の男抱かれようとした受け ※受けが酔っ払ってるシーンではひらがな表記や子供のような発言をします

バーベキュー合コンに雑用係で呼ばれた平凡が一番人気のイケメンにお持ち帰りされる話

ゆなな
BL
Xに掲載していたものに加筆修正したものになります。

また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件

月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。 翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。 「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」 逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士 貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!

双子のスパダリ旦那が今日も甘い

ユーリ
BL
「いつになったらお前は学校を辞めるんだ?」「いつになったら俺らの仕事の邪魔をする仕事をするんだ?」ーー高校二年生の柚月は幼馴染の双子と一緒に暮らしているが、毎日のように甘やかされるも意味のわからないことを言ってきて…「仕事の邪魔をする仕事って何!?」ーー双子のスパダリ旦那は今日も甘いのです。

異世界転移された傾国顔が、アラ還宰相の幼妻になって溺愛されるまでの話

ふき
BL
異世界に転移したカナトは、成り行きでアラ還の宰相ヴァルターと結婚することになる。 戸惑いながら迎えた初夜。衝動のキス、触れあう体温――そして翌朝から距離が遠ざかった。 「じゃあ、なんでキスなんてしたんだよ」 これは、若さを理由に逃げようとするアラ還宰相を、青年が逃がさない話。 ヴァルター×カナト ※サブCPで一部、近親関係を想起させる描写があります。