バレンタインパーティで出逢ったダサい年下君は、脱いだらまさかのアノヒトでした。

カミヤルイ

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 次に目を覚ますと、隼人の姿はなかった。

「……やっぱりそうだよな」

 テーブルの上に「仕事なので先に出ます。支払いは済ませてあります」とメモが残されていたが、また会いましょうとも、もちろん連絡先の記載もない。

 ワンナイトとわかっていながら心の隅で期待していた自分がおかしくて、鼻で笑ってしまう。

 梶山はメモを小さくちぎると、情交の跡が染み込んだティッシュで山盛りのゴミ箱にパラパラと捨てた。

「……あれ? そう言えば俺、スマホ出してたっけ?」

 視線をテーブルに戻したとき、テーブルの上のスマホに気づいて手に取る。

 バッグから出した記憶はない。

(もしかして……俺が寝てる間に指紋認証で操作して、個人情報を見た……?)

『先生』と言っていたと思うが、職業を漏らした記憶もやはりないのだから。

「……ま、いっか! 別に知られて困ることもないし、相手は有名芸能人。俺がなにかをしなけりゃあっちが使うこともないだろう!」

 安易に考えてしまうのは、大した情報をスマホに入れていないからだ。

(寂しい人生が功を奏したなー)

 はは、と乾いた笑いを零す。

(でも……それだけじゃなくて……)

 なによりも隼人との一夜が悦すぎたから。
 演技でもたっぷりと愛してくれたから。

 あんなに素晴らしい夜を体験できる人間などそうはいない。

(うん。これからもテレビで応援するぞ~~)

 

 帰宅すると午前十時過ぎ。
 出社は十四時だからまだ時間がある。

 梶山は軽い朝食を取りながら録画していたドラマを見た。
 もちろん芳野隼人が主演の、刑事ものだ。

(やっぱりかっこいいいなあ)

 SP役の隼人はスタントを使わずに高い位置から飛び降りたり、たくましい身体をフルに使った格闘シーンを見せつける。

(あの身体に俺は……)

 頭をお花畑にしながら情事を反芻していたときだった。

「ピンポーン」

 インターフォンが鳴り、そこから続けて四度鳴り響いた。

(誰だ?)

 梶山が住むマンションの部屋のインターフォンが鳴ることはほぼない。

(しかも何回も鳴らすなんて……) 

 不思議に思いつつ腰を上げる。

「……はい」

 インターフォンの画面を操作し、モニターを表示させて返事をした。

「せんせ、開けてください」
「えっ」

 モニターに映ったのは、田舎風若者に変装した隼人。

(どうして? どうして家に? あ、そうか、個人情報を抜き取られたから!)

 それって犯罪だぞ、とよぎりつつも、隼人が単身で訪ねて来たことにパニックになった梶山は思わず開錠ボタンを押してしまう。

 そして隼人はエントランスを抜け、すぐに梶山の部屋の前まで来てしまった。

 次は玄関のインターフォンが鳴る。

(あわわ、もう来た。開けないわけにはいかないよな)

 見事な変装をしているとはいえ、有名芸能人を玄関前で待たせるわけにも警察に通報するわけにもいかない。

 梶山はおそるおそる玄関ドアを開け、隼人を部屋に迎え入れる。

「あ、あのぅ、どうしてここに?」
「うん、ほらこれ」

 いっさいの屈託なくにこっと笑い、隼人は上着のポケットから取り出したスマホの画面を梶山に見せた。

「ひっ……!」

 まさかのGPSがつながっていることを示されて、梶山は目を見開く。

「せんせ、よく眠っていたから起こすのが忍びなくて、今朝はホテルに残していってごめんね。でもこれでせんせがどこにいてもわかるから、スケジュールが空いたらいつでも会いに来るからね」
「い、いや、待ってくれ。個人情報も抜き取ったうえにGPSまで!? いったいなにが目的なんだ」

 血の気が引いていく。
 今から芸能人を誘ったと金をゆすられるのだろうか。
 それとも都合のいい性欲処理器にされてしまうのか。

 だが、隼人は思いも寄らない返事をした。

「え~? 個人情報なんて抜き取ってないよ。GPSをつなげただけ。当たり前でしょ。俺たち恋人同士になったんだから」
「ほぇ!? 恋人同士!?」

 いつそんなことに?
 そして最近の若い恋人同士にGPSは常識なのか?

 いや、とりあえず自分たちは恋人同士なんかじゃない。

「あの、いや、その」

 しどろもどろになっていると、隼人は言葉を重ねてくる。

「昨日俺の告白に答えてくれたから、俺たち付き合ってるんだよね?」
「昨日……告白……?」

 この瞬間から過去の記憶がリバースで頭の中に流れた。

「……あ、え? バレンタインパーティーの、あのチョコカクテルでの告白、本気だったのか?」
「本気以外で告白しないし、セックスするわけないでしょ」
「だって、会ったばかりの、しかもオジさん相手に、本気??」
「本気も本気」
「嘘だ! 信じられないし、俺と芳野隼人が付き合うなんて、そんな非現実的なことがあっていいわけ……」

 ない! と言おうとしたところに、ズイ、とスマホの画面を寄せられた。

『あぁん! そこ、そこ気持ちいいっ。もっと突いてぇ……あぁぁ! やっぱりダメえ、すぐイっちゃうから、もう出るから、あぁぁ~~~~!』
『パンッ、パンッ、パンッ! グチュ、ドチュ、ジュポンッ!』

 昨夜の梶山のあられもない姿が映し出され、嬌声と激しい行為の音声が流される。

「ひっ……」
「俺をさんざん誘惑してこんなことになっちゃって……それなのにせんせは本気じゃなかったの? でもせんせ、大人なんだから責任取って恋人になってくれますよね?」

 またとニコッと微笑まれる。
 天使のような笑顔だが、芳野隼人という男はヤバい人間のだったようだ。

 しかしヤバくても推しは推し。
 キラキラしたまぶしい笑顔に見惚れてしまう自分が憎い。

「……ん?」

 隼人の笑顔にある一人の笑顔が重なったのは、それからしばらくしてからだった。

(あれ……? 俺、この顔知ってる……? 確かこんな笑顔をして、俺に悪戯をしたりじゃれついたりしてくる子がいたような……)

 記憶を辿る。
 霞がかっていた笑顔が徐々にはっきりとしてくる。

(あれ? あれれ? あの子は、はやと……隼人……?)

 やがて、思い出した。
 その子が大学生時代にアルバイトで個別指導をしていた小学生の『有吉隼人君』だったことを……。

「……えっ? まさか、まさか、あの有吉隼人君!?」
「せんせ! 俺のこと、ちゃんと思い出してくれた!?」

 ワン! とでもいうように隼人が飛びついてくる。

 十歳の隼人君も、いつも子犬のように梶山にくっついてきていた。

「やったあ! もう奇跡、奇跡だよ! 俺、五年生が終わる前に海外に引っ越したでしょ? それで、二十歳で芸能界に入ってから日本に帰ってきたんだけど、八年間どんなに探してもせんせの消息が掴めなかったんだよ。ずっとずっと会いたかったよ」
「ど、どうして俺なんかを」
「どうしてもこうしても、せんせを好きだったからに決まってるでしょ!」
「はぁっ?」

 なにをいうのか、隼人はほんの子どもだったじゃないか。
 恋とか愛とか、十歳の頃の梶山は知りもしなかった。

 そう思う気持ちが伝わったようだ。
 隼人は頭をゆるゆると横に振って続ける。

「思春期に入っても思い出すのはせんせの優しい笑顔だけで、何度せんせで発散したことか……でもそんな自分を認められなくて、自分はゲイなのかと知りたくて昨日あのバーに行ったんだ。そしたら、いるじゃん。せんせが! すぐにせんせだってわかったよ」
「え……じゃあ、君もゲイなのか?」

 問うと、隼人は首を傾げた。

「他の人にはなにも感じないからやっぱり今でもわからない。でも、せんせがゲイでよかった。俺たちは結ばれる運命だったんだよ!」
「運命って」
「好き、せんせ、好きだっ」
「……んんっ」

 有無を言わさず唇を奪われた。
 口の端から唾液が漏れるほど濃厚に貪られる。

 それは、チョコレートよりもずっとずっと甘いキスだった。

 梶山は隼人の熱に溶かされ、なにも考えられなくなるほど蕩けてしまうのだった。


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