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お江戸でざる?
見世劇場「華屋」 弐
しおりを挟む「ようこそいらっしゃいました」
金剛が食事処の表扉を開けると、芸子達が揃って声を上げた。時代は違えどやることは一緒だ。俺も言われた通り、はりきって注文を受けに行く。
「らっしゃいませ! ご注文をお伺いします!」
「お、おお、エラく景気のいい新顔だな。じゃあ、茶団子と玉露」
「喜んで!」
悠理スマイルもサービスだ!
と、耳たぶをつねられる。
「痛った! 毎度毎度なにすんだよ」
またなずなかよ。イビリを注意されたばかりだろ?
なずなは耳をつまんだまま俺を奥に下げた。
「ここはうどん屋じゃないんだよ! 品良くやれ! 華屋の格を損ねるんじゃないよ」
「お、おお、悪い·····」
つい、居酒屋のノリで·····。
店を見渡してみると、確かにたおやかとでもいうような雰囲気が流れている。芸子全員「女形」のたまごだもんな。シナを作っていて、舞台の上と遜色ない動きだ。
そうか、ここも自分を売り込む「舞台」なんだ。
「·····そういえば華は? ここの仕事はやらないのか?」
舞台から退いて以降、華の三人を見ていない。
「ああ、茶汲みはやらない。変わりに·····あぁほら、いらっしゃった。あの方は位の高いお坊様だ。あっちは奉行所のお侍様。あっちはお医者様。見てな、奥の個室に入るから」
言われて奥に目をやると、三つの扉があった。確かに一人ずつその中へ案内されて行く。
それから数分もせず、俺がさっき入った食事処の裏口から、華やかな空気と共に現れたのは三人の華。
なずなが腰を落として頭を下げた。
「楓さん、牡丹さん、菖蒲さんだ」
袖を引っ張られ、お前もやるんだよ、と示されて慌てて頭を下げる。
華達は揃って「ご苦労さん」と微笑んで足を進めた。そして、茶屋の中央の通路を通ると客が歓声を上げ、着物の帯になにかを挟んでいく。
「あれって投げ銭てやつ?」
「なげせん? 今日の舞台のご祝儀だよ。花代のこと。広間利用のお客さんはとてもじゃないけど華買いはできないからさ。ああしてご祝儀を渡すと、その時少しだけ華に笑ってもらえるのさ。運が良けりゃ手を握ってもらえもする」
この頃からホストクラブみたいな制度はあったわけか。
感心していると、華達はそれぞれ奥の個室に入って行った。
「華はあそこで特別なお客様のお相手をするんだ。お客様は既に華屋に揚げ代を済ませていて、少し話をしてからそのままお座敷に移るってわけ」
お座敷……華屋の陰間茶屋か。ちらっと聞いた半日コースみたいなものかな?
「ほら、そろそろ私らも出なきゃ。指名を取らないとおまんまに逃げられる。なにせ華のお手当ての五割以下だからね」
「まじで!?」
そりゃ大変。俺はなずなに続いていそいそと広間に出た。周りを見ながら真似をして歩いてみる。女形なんてやったことないけど、俺だって演技はやってきた。これは仕事だ。
「ようこそいらっしゃいました」
寄り合いの卓前で渾身の笑顔とくねり発動。
「へえ! こりゃ美人だな。舞台にはいなかったから新入りか?」
お、ひっかかった?
「はい。百合と申します。以後ご贔屓にお願いします」
しゃなり……うん、なかなかいい線いってるんじゃない?
「ああ、おめェが噂の!」
別の客が言うと、広間がザワザワとしだした。
噂? ああ、土左衛門だの、保科様直々の、ってやつかな?
俺が再び渾身の微笑みを作ると、幾人もの客が寄ってきた。
「確かに美人だな、見ろよこの透明な肌」
「髪はおかしいけど、前髪が額に垂れるのが逆に色っぺぇなぁ」
「なるほど、保科様のお眼鏡に叶うワケだ。派手な顔じゃないがこのつぶらな瞳がクるねぇ」
おお、受けてる? 俺、イケてる?
「よし、買ったぞ、俺が一番をもらう!」
一人の客が俺の手を掴み、腰を強く抱き寄せた。
その時、突如俺は理解した。なずなが言った「指名」は、給仕の指名じゃない。夜の相手の指名なんだと。
……うそっ、今晩もう……!?
四肢が一気に冷えて、足の力が抜けそうになる。そこへするりと立ち入って、俺を後ろへ隠してくれた大きな影。
「お客人、すまねぇ。百合はまだ仕入れ前だ。近いうちに水揚げするからそれから頼んますよ……かなりの値は付きますがね」
権さん……!!
……こわいよ。その風貌、悪役の権藤さんそのものじゃん。
助けてもらって申しわけないけど、お客と共に俺も震えそうになったことは内緒だ。
で? 仕入れって、なに?
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